2022年10月11日公開

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「社会保険“新加入基準”での手続き/2022年改正版」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2022年10月から改正健康保険法(厚生年金保険法含む)が施行されます。常時使用される社員の定義が見直されて、パート・アルバイトの社会保険の加入基準が拡大されるのです。改正によって何がどう変わるのでしょう。新たな要件の適用範囲と、事業者が注意すべきポイントを整理しました。

改正の概要

これまで短時間労働者の社会保険の適用については、「500人超の企業」と「500人以下の企業」で適用対象者に違いがありました。今回の改正により、短時間労働者(パート・アルバイト)の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用対象者が段階的(101人以上、51人以上)に拡大され、社会保険の加入基準が規模別に変わります。

適用範囲の拡大

社会保険適用の対象となる事業所の規模や従業員の雇用期間について要件が変更されます。改正の概略と新たな適用範囲は下の表の通りです。

注1:「常時100人超」とは、1年のうち6カ月以上、厚生年金被保険者の総数が100人を超えることが見込まれる(101人以上になる)場合をいいます。短時間労働者が、この「101人」に含まれるかどうかは「1週間の所定労働時間が、その事業所で同じような業務をしている正規労働者の3/4以上」で、「1カ月の所定労働日数が、その事業所で同じような業務をしている正規労働者の4分の3以上」という二つの要件の両方を満たすかどうかで判断されます。つまり、改正前の基準で社会保険に加入している人が101人以上ということです。「常時50人超」の場合も同様の算定方法となります。

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新たに対象となる企業

対象企業の拡大

今回の改正で、短時間労働者の社会保険適用の対象となる企業は従業員規模に応じて段階的に拡大されます。2022年10月1日からは、従業員が常時101人以上の企業が対象に加わります。さらに2024年10月1日からは従業員51人以上の企業も対象となるのでこちらも準備が必要となります。
なお、対象の企業(2021 年10月から2022年8月までの各月のうち、使用される厚生年金保険の被保険者の総数が6カ月以上100人を超えている企業)には、年金事務所から「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。この「通知書」が届いた企業においては、10月より新基準に沿って社会保険の加入手続きを進める必要があります。

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新たな加入対象者

新たな加入対象者の要件

新たな加入対象者は、次の条件を満たす短時間労働者(パート・アルバイト)です。これまで加入義務のなかった週20時間以上30時間未満労働の従業員であっても、要件を満たすと社会保険に加入しなければならなくなります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

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強制加入について

社会保険は適用事業所に常時使用される場合、強制加入となります。新たな加入基準の対象となる企業において「常時使用される場合」とは、週20時間以上勤務している従業員で2カ月を超える雇用の見込みがある者をいいます。
強制加入とは、本人や会社の意思にかかわらず、加入しなければならないということです。つまりパート・アルバイトであっても、週20時間以上勤務している従業員は社会保険に加入する義務があるということになります。

強制適用事業所

株式会社等の法人事業所は、従業員が1人でもいれば強制適用事業所となります。社長1人でも報酬の支払いがあれば同様です。また、個人経営で従業員が常時5人以上いる事業所についても、農林漁業、サービス業などの一定の業種を除いて、強制適用事業所となります。

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従業員への周知/加入のメリット・デメリット

周知の必要性

2022年10月からは、これまで社会保険に加入していなかったパート・アルバイトの多くを社会保険に加入させなければならなくなります。労働時間が週20時間以上となると、学生以外はほぼ強制加入となるといえるでしょう。
これまでパートだった従業員からは反発や不安の声が出ることが予想されます。しかし、加入義務があるので、「入りたくないから入らない」ということは通用しません。とはいえ、本人の意思に反して無理やり加入させることができないのも現実です。従って、従業員に説明して加入に協力してもらうための準備が必要といえるでしょう。

周知にあたって

従業員にとって社会保険に加入するメリット・デメリットを説明する必要があります。

加入のメリット

従来の健康保険の被扶養者、国民健康保険の被保険者、国民年金では受けることができなかった給付などを受けることができるといったメリットがあります。

例えば――
医療保険では、私傷病でケガや病気などで休業した場合、無給の期間の所得をカバーする「傷病手当金」や、産前産後休業中の所得をカバーする「出産手当金」、年金では、老齢基礎年金の上乗せとなる「老齢厚生年金」、「障害厚生年金」、「遺族厚生年金」が(受給要件に該当した場合は)受給可能となります。また、受け取る年金も国民年金より増えるなどのメリットがあるといえます。

加入のデメリット

社会保険料が発生し、給与から天引きされることになります(保険料の半分は会社負担)。

例えば――
月収15万円(標準報酬月額150千円)の従業員負担の保険料は、全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部に加入の会社の場合で計算すると――(2022年8月現在)

健康保険料 150千円×49.05/1000=7,357円
介護保険料 150千円×8.2/1000=1,230円
厚生年金保険料150千円×91.5/1000=13,725円

上記合計22,312円が給与から天引きされる金額です。

これに対して本人が負担している国民年金保険料は2022年度では、16,590円です。配偶者がいる場合は2倍の33,220円となり、これに国民健康保険料が加わると、一概に社会保険料が高いとばかりはいえません。むしろ本人が負担している国民健康保険、国民年金の保険料と比較して大差がないケースもあるでしょう。

従業員への説明にあたっては、現状の給与からいくら天引きされるのか、それに対して本人が現在負担している国民年金保険料・国民健康保険料がいくらなのかを示すことで、比較検討できるようにするとよいでしょう。

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まとめ

2022年10月、2024年10月の改正を経ると、学生以外の多くのパート・アルバイトは、社会保険に加入するのが当たり前となることが予想されます。

会社としては、保険料の半分を負担しなくてはなりませんが、一方、従業員を労働時間や収入などを扶養の範囲内(年間収入130万円未満、60歳以上は年間収入180万円未満)で働かせる必要がなくなります。パート・アルバイトは雇用の調整弁や正社員の補助といった考え方を捨て、パート・アルバイト人材の有効な活用、配置、などを考える始める時期に来ているのではないでしょうか。社会保険の適用を拡大し、「社保完備」をアピールすることで人材が集まりやすくなるというメリットも期待できます。

配偶者の扶養の範囲内の収入で働いていた従業員は、今後は年収130万円という基準に縛られにくくなることでしょう。どうせ社会保険に入るならもっと労働時間を増やしてほしいなどの要望も出てくるかもしれません。人手不足の中、今回の法改正を機に、労働条件を見直し、従業員の定着を考えるきっかけにするとよいのではないでしょうか。

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