2022年12月13日公開

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「販売代理店契約で失敗しないポイントは?」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

メーカーなど「売り主」が商品をエンドユーザーに販売する場合、直接販売と代理店販売の二つの方法があります。今回は後者、代理店を通じて販売する際に必要な「販売代理店契約」の概要と、締結に当たって注意すべきポイントを解説します。

1. 販売代理店制度(メリットとデメリット)

販売代理店制度とは、メーカーなど「売り主」が、自身の商品やサービスを、代理店を通じて消費者等に広く販売する制度です。販路拡大の手法としては最もメジャーな制度といえます。

販売代理店制度のメリット・デメリット

販売代理店制度には、メリットとデメリットがあります。全国で商品やサービスの販売をしたいけれど販売代理店制度の採用を迷っているという売り主は、制度のメリットとデメリットを比べることから始めなければなりません。以下、売り主側の視点でまとめましたが、代理店にとっては逆に、これらメリット・デメリットをいかに自社の強みとしていくかが重要です。

メリット

  1. 販売にかかるコストの節約

    売り主にとって販売代理店制度の最大のメリットは、自分で販売しなくてもよいということです。自社の販売部隊を用意するとなると、人件費や教育費など膨大な費用と労力、時間がかかります。代理店制度を採用すれば、販売に関することは代理店が引き受けてくれます。
    特に、モノづくりに特化した製造業や、マーケティングが苦手な事業者、アーティストなどにとっては、本業に集中することができ、自分たちの強みをより発揮しやすくなるという点で、このメリットは大きいといえるでしょう。

  2. 販路を一気に拡大できる

    代理店制度を活用すれば、全国各地、時には世界中に、自社の商品・サービスを取り扱う営業部隊を即座に配置できます。スピードが求められるビジネスにおいては短時間で販売体制が築けるメリットは大きいといえます。

デメリット

  1. 代理店の完全な管理は困難

    売り主にとって代理店は自社の販売部隊ではないので100%コントロールすることは不可能です。特に質の悪い代理店を使ってしまうと、顧客からのクレームにつながることもあります。また代理店が売上を増やそうとして値下げ販売に頼ると、商品やサービス、会社のイメージが悪化し、ブランド力の低下を招くこともあります。

  2. 販売ノウハウが残らない

    販売を全て代理店に任せると、顧客と直接対話をする機会が減り、販売ノウハウを蓄積しにくくなります。また商品に対する要望や不満など顧客からの声も拾いにくく、市場ニーズを収集しづらくなります。さらに代理店との契約が打ち切りになった場合、また一から販売体制を構築しなければならず、その点もリスクとして抱えることになります。

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2. 販売代理店契約の基本(二つの方式)

販売代理店制度の根幹をなすのが販売代理店契約です。

販売代理店契約は業務提携の一種

販売代理店契約は企業と企業が互いの利益最大化を目指す目的で行う業務提携の一種です。販売代理店(以下、代理店)側は、商社やメーカーなど売り主に代わって、その商品やサービスを消費者に販売し、売り主側は代理店に販売手数料を支払うことで、双方に利益が発生します。

販売代理店契約の2方式

販売代理店契約と呼ばれるものには、ディストリビューター方式、エージェント方式という、二つの種類があります。同じ販売代理店契約といっても両者には大きな違いがあります。

ディストリビューター方式

代理店が客先との売買契約の契約当事者となり、自らの責任(損益や危険負担)で商品を販売する場合を指します。 代理店は、売り主との間の販売代理店契約を基に、個別の売買契約を結び、売り主から購入した商品を契約当事者として第三者(顧客)に販売します。その際の価格は、代理店が自由に設定できます。
このように、ディストリビューター方式による売り主との商品取引は、いわゆる「売り切り・買い切り」、すなわち相対(あいたい)取引であり、それによって生じる損益は、全て代理店に帰属します。

エージェント方式

代理店は、売り主の商品を広く紹介し、販売拡大活動を行います。代理店は顧客との売買契約の当事者とはならず、その活動も、あくまで売り主のための仲立ちです。従って活動から生じる全ての損益やリスクは、売り主である商社やメーカーに帰属します。例えば顧客が支払い不能に陥り、商品の販売代金が回収できない場合のリスクは、売り主が負担します。エージェント方式での代理店は、業務実績に応じて売り主から手数料を受け取ります。商品は売り主から顧客に直送され、その代金は顧客から売り主に直接支払われます。

【2方式の主な特徴】

 ディストリビューター方式エージェント方式
契約関係売り主⇔代理店⇔顧客売り主⇔顧客
顧客への販売価格代理店が決定売り主が決定
損益・リスクの帰属先代理店売り主
販売代理店の利益顧客への売掛代金業務実績に応じて売り主から手数料を受け取る
商品の引き渡し代理店から顧客へ売り主から顧客へ直送
代金の支払い顧客から代理店へ顧客から売り主へ直接支払う

以上の違いがある一方で、日本では「販売代理店」のほかに「系列店」「特約店」など多様な名称が使われています。名称だけではどちらの方式か区別がつかないので混同しないよう注意が必要です。すなわち契約に際しては、当事者それぞれの役割(権利と義務)が明確になるよう契約書に明記しておくことが重要です。

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3. 販売代理店(ディストリビューター方式)の特徴

販売代理店という場合、一般的に多いのがディストリビューター方式です。従って、ここからはディストリビューター方式を念頭に契約時の主なチェックポイントを簡単に解説していきます。当然ながら自社がメーカーなど売り主側か、代理店側かによって、有利・不利の判断は変わってきます。

(1)独占販売権の有無

代理店契約には、通常の代理店契約と独占代理店契約があります。独占代理店契約とは、特定の代理店に、その商品の取り扱いを独占させる契約です(エリアや期間に制限を設けるのが一般的)。代理店側にとって独占販売権は非常に魅力的な取引なので、独占販売権があるかどうかは大きな問題です。一方、メーカーなど売り主にとっては、独占契約を結んだ代理店が十分な販売能力や販売意欲を有しているかどうかの見極めが重要になります。

なお、独占契約では、直接販売権・最低購入数量・競合品取り扱いの3点が重要なポイントとなります。

  1. 直接販売権の有無

    直接販売権とは、メーカーなど売り主自身が直接商品を販売する権利です。この権利を留保しておくことは売り主には有利ですが、代理店にとっては販売意欲をそがれることにもつながり、一長一短があります。

  2. 最低購入数量の有無

    代理店が最低限購入しなければならない(仕入れなければならない)数量はどれくらいかを事前に定めておきます。最低購入数量の販売が未達成の場合、契約を解除できるかどうか、どのような取り決めにしておくかは難しいところです。

  3. 競合品取り扱いの可否

    代理店は、独占販売契約を結んだメーカーA社と競合関係にあるB社の商品を販売できるかどうか、という問題です。競合品の取り扱いが可能だと、メーカーは自社製品に力を入れてもらえないかもしれず、競合他社に自社の機密情報が漏れる可能性があるため不利になります。逆に、取り扱いが禁止されると、代理店は競合品の方が魅力的な場合でも扱えなくなり、不利になってしまいます。

(2)販売地域

代理店が商品を販売できる地域はどこか、事前に取り決めておきます。

(3)販売価格の決定方法

ディストリビューター方式の場合、販売価格は代理店が決定することになります。ただ、メーカーとしては、値崩れを防ぐためにも、代理店に安売りされたくありません。そのため、販売価格を指定したいと考えがちですが、再販売価格の拘束は独占禁止法違反です。再販売価格の拘束に当たるとされないよう配慮して、販売価格の決め方などについて定めておく必要があります。

(4)第三者からのクレームへの対応は誰の責任で行うか

商品についてクレームが発生した場合、誰の責任で、誰が対応するのか、です。ディストリビューター方式では顧客は代理店を売り主として商品を購入しているため、商品の欠陥、数量不足などでクレームがあった場合の対応について定めておくことが必要です。

(5)契約終了時の処理

契約の終了の仕方を決めておくことは必須です。代理店としては、契約期間は長めで、更新拒絶や中途解約を制限した契約を締結したいところです。一方、メーカーなど売り主としては、契約期間は短めで、更新拒絶や中途解約が自由な契約のほうが有利といえます。
なお、契約が終了する時点で存在する在庫商品の扱いもあらかじめ定めておく必要があります。在庫商品の販売を禁止するかどうか、これも立場の違いで有利不利が決まってきます。

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4. まとめ

販売代理店制度には、売り主・代理店それぞれにメリットとデメリットがあります。ただし、以上はあくまで「一般論」であり、商品や市場、企業の知名度などさまざまな要因で、メリット・デメリットの強弱は変わってきます。また、どちらかが一方的に得をする契約は成り立ちません。代理店契約は、法的に難しい部分も多く、契約で失敗する事業者も多いのが現実です。契約の締結に当たっては、詳しい専門家に相談の上、想定外の損害を被らないようしっかり検討してください。

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