2023年 4月 4日公開

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「働いても減額されない!? 年金制度改正」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2023年4月1日、年金制度改正法による新たな改定が実施されます。これまでは働きながら年金を受給すると、ほとんどの人が年金の減額対象となっていました。その減額基準が緩やかになったのが今回の改定のポイントです。その概要を解説します。

1. 年金制度改正法の概要

改正法の概要

年金制度改正法(注1)は、主に高齢化に伴う社会保障費の増大や、労働者の減少への対応を目的として成立した法律です。2020年5月に成立し、2022年4月1日から施行されています。

改正法では、厚生年金の加入の対象となる被保険者が増加するほか、在職中の年金受給額の改定の仕組み、在職老齢年金の支給停止額の引き上げ、年金受給開始年齢の選択肢の拡大、確定拠出年金への加入要件の見直しなどが行われました。その中で今回は2023年4月1日から実施される「在職中の年金受給額の改定」について解説します。

  • 注1:「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」

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2. 在職中の年金受給額の改定

改正法では、在職中の年金受給のあり方に対して見直しが行われ、年金を受給しながら働き続けることを促進するものになっています。60~64歳の労働者の場合、改正後は基準となる合計額が引き上げられ、改正前の65歳以上の場合と同額になりました。

改正前

「総報酬月額相当額(注2)と年金月額の合計額」が28万円を超えた際に、超えた額に応じて年金の一部、もしくは全額の支給が停止されていました。

改正後

「総報酬月額相当額と年金月額の合計」が47万円以下の場合は、年金が全て支給され、47万円を超えた場合は、超えた額の2分の1の年金が支給停止となります。

すなわち60歳以上で在職中の人は、この4月以降、給与+厚生年金が47万円を超えなければ年金は減額されなくなったということです。厚生年金の平均支給額は9万円程度なので、給与が交通費込みで、38万円程度までであれば減額されない計算です。

もともと60歳から厚生年金をもらえる人はだんだん少なくなってきています。2023年に60歳となる人(男性)は、すでに65歳からの支給開始となっています。つまりは定年後の再雇用の働き方であれば、ほぼ減額がなくなったということになります。

  • 注2:「総報酬月額相当額」(賃金)とは、(その月の「標準報酬月額」)+(その月以前1年間の「標準賞与額」の合計)÷12のことをいいます。また、「標準賞与額」とは、実際の税引き前の賞与の額から1千円未満の端数を切り捨てたもので、支給1回(同じ月に2回以上支給されたときは合算)につき150万円が上限となります(150万円を超える時は150万円とされます)。なお、「標準報酬月額」についてはバックナンバー「社会保険算定基礎届」の巻を参照ください。

「社会保険算定基礎届」の巻

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3. 繰り下げ受給の新たな制度

年金の繰り下げ受給

老齢基礎(厚生)年金は、65歳で受け取らずに66歳以降75歳まで(注3)の間で繰り下げて増額した年金を受け取れます。繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。

  • 注3:昭和27年4月1日以前生まれの人(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している人)は、繰り下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなります。

繰り下げ加算額の計算式は以下の通りです。増額率は最大84%(75歳まで引き上げた場合)となっています。

増額率 = 0.7% × 65歳に達した月から繰り下げ申出月の前月までの月数

老齢基礎年金と老齢厚生年金は下図のように別々に繰り下げができます。

公的年金の繰り下げ受給の範囲の上限が75歳まで延長されたのは2022年4月からのことです。続けて2023年4月1日から新たに「5年前みなし繰り下げ」の制度が導入されます。

5年前みなし繰り下げの制度

70歳を過ぎて年金請求をしても、5年前に繰り下げて請求を行ったとみなし、年金額を増額する仕組みです。これは70歳以降に年金請求を行い、かつ繰り下げ受給ではなく本来の受給開始年齢からの年金受給を選択した場合に当てはまるもので、改正後は、5年前に繰り下げ受給の申し出があったものとみなして年金が支給されるようになります。

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4. まとめ

人材不足の中、働く意欲のある労働者には、できるだけ長く働いてもらうことが必要になってきています。60歳から65歳の再雇用については、「年金が減るとイヤだから」という理由でこれまで賃金を低く抑えるケースが多かったといえます。しかし、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続給付の支給率も2025年度からは下がり、将来的に廃止されることが決まっています。給付がなくとも働き続けてもらえる環境を整えることが必要となっています。再雇用の賃金アップを検討してもよい時期が来ているのではないでしょうか。同一労働同一賃金の原則も踏まえつつ、年齢を問わず働きやすい環境の整備、人材確保しやすい体制づくりが今後ますます求められます。

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