1. インボイス制度の概要
インボイス制度とは
インボイス制度とは、「インボイス」(注1)すなわち「適格請求書」に記載された消費税額をもって納付すべき消費税の計算をするという制度です。
適格請求書とは、売り手(仕入先)が買い手に対して適用税率や消費税額などを正確に伝えるために一定の事項を記載して作成される請求書のことをいいます。適格請求書には「インボイス番号」と呼ばれる登録番号(注2)が記載されます。この適格請求書のあるなしが、消費税の控除・非控除に大きく関わってきます。
- (注1)もともとは「送り状」を意味する英語「invoice」で、一般には貿易における取引内容が記された文書を意味します。現在日本国内では本文にあるように「適格請求書」の通称として使われています。
- (注2)適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、その登録を受けた際に通知される番号。
インボイスがない場合
インボイス(適格請求書)がないと、自社や取引先の消費税の納付額が高くなる可能性があります。
取引先からもらった請求書がインボイスでない場合
⇒自社が消費税10%分を控除できない
自社が発行した請求書がインボイスでない場合
⇒取引先が消費税10%を控除できない
「消費税が控除できない」=「消費税の納付額が高くなる」とは?
消費税の納付額は、下の計算式で算出します。
インボイス制度開始前
例:1,100円(うち消費税100円)で仕入れた商品を11,000円(うち消費税1,000円)で売った場合
インボイス制度開始後
(1)仕入れた取引先がインボイス未対応の場合
(2)自社がインボイス未対応の場合
自社が商品を販売した取引先A社が11,000円の商品を、B社に22,000円で売却した場合
以上、自社にインボイス番号がある場合は、取引先にインボイス番号がないと納税額が増えるデメリットがあります。逆に、自社にインボイス番号がない場合は、自社の納税額は発生しないものの、取引先に納税額増というデメリットが生じます。従って取引先は10%分の消費税納税額が増えることを回避するため、インボイス未対応の業者の請求書に「消費税を乗せないこと」、もしくは「10%分の値引き」を求めてくる可能性があると考えられます。
適格請求書(インボイス)の要件
適格請求書とは以下の項目全てが記載されたものをいいます。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録(インボイス)番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
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2. 経過措置と少額特例
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日以降の取引から適用が開始されます。ただし、一気に納税額が激変することを緩和するため、経過措置が設けられています。
経過措置について
2023年(令和5年)10月1日以降は、取引先がインボイス未対応であっても、ただちに消費税の納税額が増えるわけではありません。6年間の経過措置が設けられており、段階的に控除額が減少するようになっています。
Step.1【2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日】
→支払った消費税の80%は控除できます。
Step.2【2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日】
→支払った消費税の50%は控除できます。
Step.3【2029年(令和11年)10月1日以降】
→支払った消費税の全額が控除できなくなります。
少額特例について
1万円未満の課税仕入れ(経費等)について、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになります。
対象事業者:2年前(基準期間)の課税売上が1億円以下または1年前の上半期(個人は1月~6月)の課税売上が5,000万円以下の事業者
対象期間:2023年(令和5年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日
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3. インボイス発行事業者になる意味
納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、適格請求書の発行が認められた課税事業者のことを「インボイス発行事業者」といいます。
課税事業者と免税事業者
消費税の制度において事業者は、納税義務がある事業者(以下、課税事業者)と、納税義務が免除される事業者(以下、免税事業者)に分かれます。免税事業者に該当するのは「基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円未満」の事業者です。課税事業者と免税事業者とではインボイス発行事業者になる意味は変わってきます。
インボイス発行事業者になるメリットとデメリット
消費税の課税事業者と免税事業者に分けて、インボイス発行事業者になるメリット・デメリットを整理しました。
| 課税事業者 | 免税事業者 |
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メリット | - インボイス発行事業者としての信頼が得られる
- 免税事業者の益税問題が解消に向かい、税の公平性が保たれる
| - インボイス発行事業者としての信頼が得られる
- 2割特例などの利用により納税額の負担を軽減できる
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デメリット | - 支払先がインボイス未対応だと、納税額が増える可能性がある
- 請求書発行システムのフォーマット変更等のシステム改修が発生する
- 会計ソフト入力時にインボイス確認の手間が増える
| - 消費税申告書の作成及び納付が発生する
- 請求書発行システムのフォーマット変更等のシステム改修が発生する
- 会計ソフト入力時にインボイス確認の手間が増える
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インボイス発行事業者になるには
インボイス制度が開始する2023年(令和5年)10月1日からインボイス発行事業者になるには、原則として、2023年(令和5年)3月31日までに税務署に登録申請書を提出し、登録を受ける必要がありました。ただしこの期日に間に合わなかったとしても「令和5年税制改正」により、2023年(令和5年)9月30日までに登録申請書を提出すれば、2023年(令和5年)10月1日に登録を受けた扱いになります。
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4. 免税事業者の選択肢
免税事業者は消費税を納付する必要はありません。普通に考えると、その有利な立場を捨ててインボイス発行事業者になる理由はないといえます。しかし、免税事業者もインボイス発行事業者になるかどうかで迷うケースもあるのです。
選択のポイント
免税事業者がインボイス発行事業者になるべきかどうか、選択のポイントは取引先が課税事業者かどうかです。すなわち――
取引先が課税事業者の場合 → インボイス登録したほうが良い
取引先が一般消費者の場合 → インボイス登録しなくても影響はない(注3)
- (注3)一般消費者が会社に経費精算する場合が多い業種などは要検討(例:領収書を求められることが多い飲食店など)
免税事業者の特例
「令和5年税制改正」で、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の特例が設けられました。免税事業者がインボイス発行事業者になった場合は、その課税期間における消費税の納税額は、売り上げに対する消費税の2割とすることができるという特例です。
対象事業者:免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者で、基準期間(2年前)の課税売り上げが1,000万円以下等の要件を満たす場合。
対象期間:2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間(注4)
- (注4)個人事業者については、2023年(令和5年)10月~12月の申告から2026年(令和8年)分の申告まで対象となります。
消費税の申告を行うためには、通常、経費等の集計やインボイスの保存などが必要となります。ただし、この特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売り上げ・収入を税率ごと(8%・10%)に把握するだけで、簡単に申告書が作成できます。また、事前の届け出も不要で、申告時に適用するかどうかの選択が可能です。
ポイント
原則通り実額計算するか、簡易課税で計算するか、2割特例で計算するかは申告時に選択できるので、有利な方法を選択しましょう。また、簡易課税を選択(注5)していても、2割特例を選択することもできます。申告前にシミュレーションしてから決めるとよいでしょう。
なお、仮払消費税が仮受消費税より多い時は実額計算することで有利になる場合があり、この場合は消費税が還付されます(大赤字の場合や、設備投資などを行った場合など)。一方、簡易課税や2割特例を選んだ場合は還付にはなりません。売上税額をもとに計算することになるからです。
- (注5)簡易課税を選択するには、別途届け出が必要です。
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5. Q&A 事例集
Q. 取引先がインボイス発行事業者かどうか知る方法は?
当社は課税事業者です。取引先(法人)がインボイス発行事業者かどうかを事前に把握する方法はありますか? また、個人の取引先についても調べる方法はあるでしょうか?
A. 法人の取引先の場合は国税庁のサイトから調べられます。
個人事業者については、本人からインボイス登録番号を教えてもらう以外に方法はありません(取引先にインボイス発行事業者かどうかの質問状を送っている会社もあるようです)。取引先が法人の場合、「国税庁法人番号公表サイト」と「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」から調べる方法もあります。登録番号は、法人番号の頭にTをつけた番号になるので、以下の手順で調べることができます(注6)。
- 法人番号公表サイトで取引先の法人番号を調べる
- 適格請求書発行事業者公表サイトで法人番号を入力する
- 発行事業者であれば会社名が表示される
- (注6)適格請求書発行事業者に登録してから公表サイトに登録されるまで数カ月かかる場合があります。
Q. 一般消費者が取引先になる場合、仕入れ税額控除はできない?
当社は中古マンションの買い取り・販売を行う不動産会社です。当社のビジネスモデルは、個人からマンションを買い取り、リノベーションして売却するというものです。今回のインボイス制度では、相手がインボイス登録事業者でないと仕入税額控除ができないと聞きました。当社の場合、買い取り相手である個人は一般消費者であるため、インボイス登録事業者ではありません。この場合、当社が買い取った際の消費税は控除できないのでしょうか?
A. 宅地建物取引業を営む事業者の場合は、帳簿の保存だけで大丈夫です。
インボイス発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入は、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができることになっています。従って御社が買い取った際の消費税は控除できます。ただし、相手方がインボイス発行事業者である場合は、適格請求書の交付を受け、それを保存する必要があります。
Q. 免税事業者が取引先から消費税分の値引きを求められたら?
当社は免税事業者です。検討の結果、インボイス発行事業者にならない方がよいと考えています。その場合、取引相手から消費税10%分の値引きを求められることがあると聞きました。当社は必ず値引き交渉に応じなければいけないのでしょうか?
A. 一方的な値引き要求に応じる必要はありません。
必ず応じる必要はありません。あくまで買い手と売り手が双方納得した交渉内容で取引が成立することが契約の基本です。御社がインボイス発行事業者でないことを理由に、形式的な交渉のみで、かつ仕入れ側(買い手)の都合のみで、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような著しく低い価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。
Q. 免税事業者でも販売価格に消費税相当額を転嫁できますか?
当社は免税事業者なのですが、インボイス制度が始まる2023年(令和5年)10月1日以降、販売価格に消費税相当額を転嫁してもよいのでしょうか? それとも消費税相当額は転嫁せず、販売価格のみで請求すべきでしょうか?
A. 販売価格に消費税相当額を転嫁して問題ありません。
免税事業者であっても仕入れや経費の支払い時に消費税を支払っています。よって免税事業者が、支払った消費税相当額を販売価格に転嫁することは容認されています。
Q. 免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の特典は?
当社は免税事業者ですが、取引先が法人メインなのでインボイス発行事業者になる予定です。免税事業者があえてインボイス発行事業者になった場合の特典はあるでしょうか?
A. 2割特例と簡易課税という特典があります。
本文でも触れたように、免税事業者が課税事業者になった場合は、売上税額の2割を納税額とすることができます。また、課税売上高が5,000万円以下の事業者は簡易課税制度を適用できます。その場合は仕入れの際にインボイスを受け取り、保存する必要はありません。
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6. まとめ
2023年(令和5年)10月からスタートするインボイス制度においては、自社が課税事業者か免税事業者か、取引相手が課税事業者か免税事業者か、によって対応が異なってきます。特に自社が免税事業者の場合は、インボイス発行事業者になるかどうか慎重に検討する必要があります。免税事業者に対しては特例制度や簡易課税制度が設けられているので、どの方法が有利になるか、インボイス発行事業者にならないという選択肢も含めて、じっくり検討するとよいでしょう。
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