2023年12月12日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

「儲かる植物工場」に世界が注目

執筆:小口 正貴(スプール) 企画・編集・文責 日経BP総合研究所

青果流通の目利きがゼロからスタート

京都で植物工場を運営するスプレッドが、総額40億円におよぶ資金調達に成功。国内フードテックで一度に調達した金額としては過去最高額を記録した。社会のあらゆる場面で持続可能性が叫ばれる中、安定的な“食”を提供できる手段として大きく評価された証だ。まるでSF映画のような工場を訪れ、同社が目指す未来の姿を聞いた。

スプレッド

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

約7割を自動化した未来型の植物工場

SDGs(持続可能な開発目標)がごく当たり前に語られるようになった今、“食”はエネルギーと並び早急に対処すべき重要項目である。だが、2021年度(令和3年度)における日本の食料自給率はカロリーベースで38%、生産額ベースで63%と厳しい状況が続く。

日本の食料自給率の推移
(出所:農林水産省)

農業従事者も減少の一途をたどる。農林水産省の調査によれば、2021年の基幹的農業従事者(主な仕事として自営農業に従事する者)の数は130万2000人。わずか5年前の2016年と比較して28万4000人も減っている。そればかりか、平均年齢が67.9歳と高齢化が著しい。

※参考リンク
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

これら山積みの課題に立ち向かうべく、近年はアグリテック、フードテックのスタートアップが続々と誕生している。ロボットやドローンによる農作業の効率化、データ管理による経営支援、画期的な代替食などさまざまな切り口があるが、今回紹介するスプレッドはそのどれとも異なる。テクノロジーを駆使した植物工場で野菜を育て、これまで全国の約5000店舗、累計約9000万食を人びとに届けてきた販売実績を持つ“生産者”だからだ。

スプレッドは2006年に創業。翌2007年、京都府亀岡市で人工光型植物工場「亀岡プラント」の稼働を開始し、レタスなど葉菜類を中心に生産してきた。

2018年11月には、京都、大阪、奈良にまたがる学研エリアのけいはんな地区に新工場「テクノファームけいはんな」(京都府木津川市)を設立。同工場は約70%の栽培工程自動化により、従来型植物工場と比較して約50%の大幅な省人化を実現。加えて約90%の水資源リサイクルを達成するなど環境面にも配慮した。独自のIoTプラットフォーム「テクノファームクラウド」による徹底した栽培管理も功を奏し、現在は1日3トンの葉菜類を生産している。

テクノファームけいはんなでのレタス栽培の様子。水耕栽培で育ったレタスが新しい順に棚の前から奥に並び、最前列のレタスがその日に出荷される。担当者によれば「トコロテン式に押し出される」イメージだ。出荷スペースへの運搬も自動化され、基本的に栽培エリアは無人だという
(出所:スプレッド)

マンションの一室から始まった壮大な旅

スプレッド 代表取締役社長 稲田信二氏は青果物商社で働いた後、2001年に青果流通企業のトレード(現アースサイド傘下)を創業。流通事業を通じて農家と接する機会が増える中、疲弊する生産現場を目の当たりにしたことが後にスプレッドを興すきっかけとなった。