2023年11月14日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

NTTが示す「脱・昭和」の働き方

執筆:長坂 邦宏(フリーランス) 企画・編集・文責 日経BP総合研究所

転勤・単身赴任・「配属ガチャ」にメス

NTTグループは、2022年7月にリモートワークを基本とする新たな働き方を導入した。勤務場所は「社員の自宅」。リモートワークと出社のハイブリッドワークを前提とし、転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡大していく。この導入に先立ち、2021年9月には「新たな経営スタイルへの変革について」を発表。アフターコロナを見据えて様々な業務改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)を行い、「分散型ネットワーク社会に対応した新たな経営スタイル」を推進することを示していた。前半では、NTT執行役員で総務部門長の山本恭子氏に新たな働き方についてインタビュー。後半では、NTT東日本本社に所属しながら秋田県に移住し、農業を起点とした地域づくりに携わる中戸川将大氏にリモート取材した。

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

「ワークライフバランス」から「ワークインライフ」へ

――日本全国どこからでもリモートワークで働ける制度「リモートスタンダード」を2022年7月に導入しました。その背景からお話いただけますか。

山本恭子氏(以下、山本) 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月からリモートワークに舵を切りました。2021年9月に「新たな経営スタイルへの変革について」を発表した時には、すでに1年半ほどリモートワークの実績がありました。コロナ後も完全に元に戻ることはなく、個人のライフスタイルも社会基盤も、ビジネスのやり方も、リモートとリアルのハイブリッドになっていくだろうという認識を持っていました。

NTT 執行役員総務部門長の山本恭子氏
(撮影:長坂 邦宏)

経歴

1992年日本電信電話に入社。2007年エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ ヒューマンリソース部担当課長、10年同社法人事業本部第二法人営業本部 東北支店長、2012年同社ヒューマンリソース部担当部長、2014年海外留学(London Business School, Sloan)、2017年同社ヒューマンリソース部長。2017年NTTラーニングシステムズ取締役(2022年6月まで)、2021年同社執行役員ヒューマンリソース部長、2022年日本電信電話執行役員総務部門長、西日本電信電話取締役(ともに現在に至る)。

――NTT東日本は地域課題の解決に力を入れ、課題解決型事業の売り上げを伸ばすとしています。そうしたビジネスモデルとリモートスタンダードへの取り組みは関係がありますか。

山本 やはり関係があります。「新たな経営スタイル」の具体的な取り組み内容を示した最後の方に「首都圏等から地域(中核都市)へ組織を分散」し、「地域密着型の地方創生事業をさらに加速」するとあります。日本はこのまま東京一極集中でいいのかというと、エネルギー問題を考えても社会のレジリエンス(柔軟性)を考えても、やはり課題は大きい。

もっと分散型社会にしていくべきだと思いますし、地域のパワーがもっと上がっていくべきだと考えると、やはり人も分散していた方がいい。人がいるということが地域の活力になります。「東京に会社があるから東京に住みます」ということでは、もうないんだろうと思います。

――「新たな経営スタイル」の中で「ワークインライフ(健康経営)」という言葉を使っていますね。

山本 そもそもワークってライフの一部ですよね。社員の皆さんの生活や人生そのものが健康で豊かなものでないとワークも充実しない。今までワークとライフはバランスするものという考え方がありましたが、発想を変えて、ワークはライフの一部なので、社員のライフそのものの充実を会社がサポートしていくことがワークの充実につながるという大きな概念を提示しました。

「新たな経営スタイル」をオンライン説明会で解説したのは澤田純社長(当時、現在は会長)ですが、澤田はもともと「若い社員がわざわざ家賃の高い東京に住む必要はないし、どこに住んだっていい」「会社の命令によって単身赴任でどこでも行くっていうのは日本人だけ」と言い、「昭和のスタイル」を変えることが必要であり、そうすることで世の中をリードしていきたいと考えていました。

――経営スタイルを変革するため、具体的にどんな業務変革や制度の見直しに取り組んでいますか。

山本 まず「クラウドベースシステム/ゼロトラストシステムの導入」を進めています。セキュリティが担保され、リモートでもオフィスと同じような環境がないと安心して働くことができません。クラウドを使って端末には情報が残らないようにしています。ゼロトラストシステムというのは、ある程度何かが起きることを想定してセキュリティの仕組みをより厚くしたものです。

事業会社全体に導入されるのが2023年度を予定しています。主要な事業会社で6万人、グループ会社全体で19万人が対象になります。

次に「業務の自動化/標準化」もポイントで、それが進むことによってリモートで対応できる業務が増えていきます。

(出所:NTT「新たな経営スタイルへの変革について」)

制度面では「業務改革・DXを推進するための制度見直し」を進めます。2023年度までにDX推進に向けたコア人材2400人の育成を予定しています。

(出所:NTT「新たな経営スタイルへの変革について」)

「職住近接によるワークインライフ(健康経営)の推進」では2022年度中にサテライトオフィスの拠点を全国で260にします。「住む場所は自由」が最終形ですが、その前にサテライトオフィスの拡充をやっていきます。現在は外部の一般的なサテライトオフィスを含めると2022年3月末で全国500カ所ほど整備しました。自社の局舎を利用したサテライトオフィスが60拠点あります。

(出所:NTT「新たな経営スタイルへの変革について」)

自律した大人同士が信頼関係をベースに仕事をする

――住む場所は自由、リモートワークがスタンダードとなれば社員はハッピーです。一方で上司から部下の仕事が見えにくくなり、不安に思う上司も出てくるでしょうね。

山本 やはり上司と部下の間に信頼がないと新たな働き方は成立しません。今までのように管理するという目線ではダメだと思います。経営サイドも社員も自律した大人同士が信頼関係をベースに仕事していくのがあるべき姿だと思います。