「300万円の家」は何を変える?
2023年1月、大手百貨店の高島屋が「3Dプリンターハウスの福袋」を用意して話題を呼んだ。約10m2、「Sphere(スフィア)」と名づけた球状のハウスは趣味の小屋やリッチなグランピングを目的としたものだが、土地代を除く価格は税込み330万円。物珍しさも手伝い、限定1棟に対して46件もの応募があった。
提供したのは、兵庫県西宮市に本社を置くセレンディクスである。2018年8月、「世界最先端の家で人類を豊かにする」ことをビジョンに掲げて設立した同社は、2019年1月から3Dプリンター住宅のプロジェクトを開始。2022年3月には、日本初となる3Dプリンター住宅を愛知県小牧市の「百年住宅中部 小牧工場」内に建築した。驚くことにわずか23時間12分で施工したという。
日本初3Dプリンター住宅施工の様子(出所:セレンディクス)
施工から約1年が経過したSphere。間近で見ると想像以上に大きい(写真:小口正貴)
セレンディクス代表取締役の小間裕康氏は、京都大学発ベンチャーのGLMを率いてEV(電気自動車)スポーツカーを世に送り出した人物。その小間氏と共同でセレンディクスを立ち上げたCOO(最高執行責任者)の飯田国大(はんだ・くにひろ)氏に、3Dプリンター住宅がもたらすインパクトを聞いた。
――日本で3Dプリンター住宅事業を始めようと思ったきっかけは。
スタートアップの存在意義は課題解決にあります。小間も私も連続起業家としていくつかの事業を展開してきましたが、これからの時代にどんな課題があるかを考えたとき「これだけ社会が発展しているにもかかわらず、いまだに30年間も住宅ローンに縛られているのはおかしい」との結論に至りました。この課題を解決する手段として、当時海外で注目され始めていた3Dプリンター住宅に着目したのがきっかけです。
世界では3Dプリンター住宅の開発競争が盛んですが、海外の事例を見ていくと、住宅の壁を出力しているのがほとんどです。つまり既存住宅の延長でしかなく、施工時間は半年かかり、コストも3割ほどしか削減できません。しかし我々は世界で初めて屋根まで一体成型できる点が強みです。これにより施工時間を劇的に短縮し、最終的にはコストを10分の1にすることを目指しています。
セレンディクス COO 飯田国大氏(出所:セレンディクス)
――それは相当チャレンジングです。