2025年 6月19日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

あなたの知らない大塚商会・第4回

企画・編集・文責:日経BP総合研究所

新規事業の出発点は好奇心
推進部門はなぜ「ノルマ無し」?

「あなたの知らない大塚商会」の第4弾は、大塚社長が語る新規事業。LED電球をはじめとした大塚社長自身が開拓した新しい事業の背景にある考え方や、新しい事業に向けた社内の体制づくり、現在注目している技術領域などを聞いた。(聞き手は、菊池 隆裕=「一歩先への道しるべ」編集長)

――大塚社長にとって新規事業の原点は「LED」と聞いています。早くに着手したこともあり、数百億円の事業に成長しました。なぜLEDに注目し、どのようにして大きな事業として育て上げたのか詳細を教えていただけますか?

大塚裕司氏(以下、大塚) とにかく新しい技術が好きなんです。技術に興味があるから、売り込みがあればすぐに勉強して実現可能性を考えます。

本社ショールームで初期のパソコンを見つめる大塚社長。常に新しいものに興味を持つことが新しい事業の出発点
(撮影:加藤 康)

LEDで言えば、そのメリットは発熱が少なく、基本的に球切れしないことです。以前からオーディオ製品のパイロットランプなどに使われてきましたが、白色LEDが出てきたことで普通の電球と交換すれば電灯として使うことができます。その面白さにまず惹かれました。2008年ころですからまだまだ普及前のフェーズで、ネットの掲示板で「大塚商会は電球屋になった」と揶揄されたこともありましたが、事業化に躊躇はありませんでした。

確か2009年だったと思いますが、当社の実践ソリューションフェアで5万個のLED電球を無償で配布したんです。当時は1個3000円ぐらいしましたが、とにかく知ってもらい、体験してもらわないことには良さが伝わらないと思ったからです。

その後、2011年の東日本大震災を受けて、世の中の流れが大きく変化しました。それまでは電球をLEDにすると購入サイクルが長くなってしまうので、メーカーにとって邪魔者扱いでしたが、震災以降はむしろLED電球がスタンダードになっていきました。日本の全家庭が60Wの既存電球を1個ずつLED電球に変えたら、原発数基分に相当する電力削減効果があるという話も聞きました。そうした追い風があったことは幸運でしたが、自分としてはもっと事業を伸ばしたかった思いがあります。

私の取り組みは「早すぎる」と言われることが結構多いようです。例えば2016年にはセイコーの方と知り合って、タイムスタンプ事業を立ち上げました。でも電子署名の隆盛とともにタイムスタンプが一般化したのはこの数年じゃないですか。ほかにもIPv6やRFID(電子タグ)も相当早くから事業化しましたし、新技術を先行して手がけてきた自負があります。

とにかくピンときたらスピード感を持って行動することを心がけています。2009年ころの話ですが、東京大学の江崎浩教授と知り合って、IEEE1888という次世代BEMS(ビルエネルギー管理システム)の仕様を知りました。私は10万円ほどする冊子を購入して新幹線で読み込み、翌日には竹中工務店の役員室でその仕様についてプレゼンしていました。

――大塚社長の目利きあっての新事業のようですが、会社として新規事業の種を探して育てる仕組みはどのように整備されているのですか。

大塚 事業開拓の基盤となっているのが、社長就任時に設立した直轄チーム、今のTSM課です。当初はたった8人でスタートしました。メンバーはコピー機を売ることに関して抜群のセンスを持った社員たちで「予算目標はない。指示もしない。好きなことをやっていいよ」というミッションを与えました。AIが好きだったり、電力系のソリューションが得意だったり、中には飛行場が好きだったりと個性豊かなメンバーがそろっています。