2026年 2月10日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

ラピダスは日本活性化の起爆剤か

執筆:伊藤 元昭(エンライト) 企画・編集・文責:日経BP総合研究所

半導体産業の再建を担い、光電融合も視野に

最先端半導体の開発・生産能力は、その国の産業競争力を左右するだけでなく、経済安全保障における戦略物資となっている。国家や地域間の対立・分断が進む現在、日本はその国内生産体制を再建しようとしている。果たしてその試みは成功するのか。日本の半導体産業の再建の役割を担って新たに立ち上げられた半導体メーカーであるラピダスを取り上げ、その役割や今後の展望、地域経済への波及効果を分析する。

ラピダス

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

ラピダスが北海道千歳市に建設していた最先端半導体工場が2025年4月に稼働を開始し、「ゲート・オール・アラウンド(GAA)」と呼ぶ先進的トランジスタ技術に基づいた2nm世代のチップ試作に着手した。7月には、性能評価用の試作チップが完成する予定である。果たして思惑通りのチップが出来上がるのか注目が集まっている。

さらに、前工程(ウエハー工程)との一貫生産を目指し、近未来の半導体の価値を大きく左右すると目されている後工程(パッケージ工程)に向けた製造装置の搬入が、セイコーエプソン千歳事業所内の技術開発拠点「Rapidus Chiplet Solutions(RCS)」で始まった。本格的な量産開始は2027年を予定しているが、少なくともここまでは計画通りに進行していると言えるだろう。

日本にとって野心的な目標を掲げる

いよいよ全貌が見え始めたラピダスの工場は、工場がある地元の北海道はもとより、日本全体の産業界を活性化させる起爆剤になると期待されている。

半導体産業においては、半導体ウエハー上に微細な素子を形成できる技術を保有することが、性能・コストの面で高い競争力を持つことを意味する。こうした最先端半導体を自国で開発・量産できることは、下流にある応用産業に与える波及効果が極めて大きい。コンピュータはもとより、自動車やネットワーク機器、家電製品、産業機器、医療機器、建機・農機、住宅・オフィスビルまで、あらゆる機器・システムの機能・性能が、搭載する半導体の質次第で決まる時代が到来している。これら工業製品を開発する産業の国際競争力を底上げするには、半導体メーカーとの密な連携と潤沢かつ安定的な供給体制の確保が欠かせない。

加えて、半導体産業には裾野が広いサプライチェーンが構築されている。国内での開発・量産体制が整備されれば、その恩恵は広範な業界・業種の数多くの企業に及ぶ。

先端半導体の国内量産体制確立によって期待できる波及効果
(出所:筆者が作成)

ところが、現在の日本には約20年前の技術である40nm世代までの量産工場しか存在していない。2025年時点での最先端技術は3nm世代に移行しており、1990年代まで世界のトップを走っていた日本の半導体産業は、世界から大きく引き離された状況にある。このギャップを考えると、国内半導体産業の再興に向けた取り組みがいかに野心的なものであることが分かるだろう。