なぜ「年収の壁」対策が必要なのか?
政府は「成長と分配の好循環」(成長の果実が賃金に分配され、セーフティーネット等による暮らしの下でそれが消費につながること)の実現を目指していますが、立ちはだかる「壁」があります。それが「年収の壁」です。「年収の壁」とは、会社員等の配偶者で社会保険料を負担していない方が、収入の増加による社会保険料の負担および手取り収入の減少を回避するために、就業調整を行おうとする基準となる年収のことをいいます。
就業調整を行うのはパートタイマーやアルバイトなどの非正規雇用労働者(以下「パートタイマー等」とします)です。現在、政府は賃上げしやすい環境の整備に取り組んでいますが、パートタイマー等に関しては企業がせっかく賃上げをしても、「年収の壁」に今までより短い時間で到達してしまうだけという皮肉な結果になってしまいます。
加えて、わが国は「2040年問題」(2025年から2040年までの15年間で生産年齢人口が約1,100万人減少する問題)という深刻な人手不足への対応も迫られています。人手不足への対応策の一つが女性活躍推進なのですが、すでに女性の労働参加はかなり進んでおり、人数の面ではこれ以上の増加はなかなか見込めない状況にあります。そのため、パートタイマー等にこれまでより長く働いてもらう必要性があるのですが、ここでも「年収の壁」による就業調整という問題が立ちはだかります。
「年収の壁」問題の中心は社会保険料の負担
次に掲げる表は「年収の壁」のうち主なものです。
年収の壁 | 壁を超えると生じる義務 | 備考 |
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100万円の壁 | 住民税の納付義務 | 自治体により金額の違いあり |
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103万円の壁 | 所得税の納付義務 | |
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106万円の壁 | 社会保険料の納付義務 | 一定規模以上の企業(注1)の場合 |
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130万円の壁 | 社会保険料の納付義務 | |
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- (注1)社会保険の被保険者数が常時101人以上の企業(2024年10月からは常時51人以上の企業)