この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
ツールやAIを活用しながら現場を巻き込む
――先生は企業のDXについて、2019年に上梓された著書「戦略的IoTマネジメント」の中で既に、中小企業を含めて、IT企業ではない企業にこそチャンスがあるとお話しされています。当時からこれまでの企業のDXの進展についてどのように見ていますか。
内平 政府が国を挙げてDX推進に向けた取り組みを行ってきたこともあり、DXはさまざまな規模、業種の企業に広がっています。その中には成功しているケースもあれば、苦労しているケースもあると思います。
DXの推進に関する事例が増えてきたことから、私たちなりに調査やヒアリングを行った結果、DXを成功させるために知っておくべき課題や取り組むべき施策が明らかになってきています。この結果を受けて私たちは、企業の方々に、DXプロジェクトに着手する前から起こりうる課題を想定して事前に対策しておくことが重要だとお話ししています。
――事前に行うべき対策とはどのようなものなのでしょうか。
内平 中小企業でDXを成功させるには五つのポイントがあると考えられます。
一つ目は、解決すべき課題や目指すべきビジョンが明確であること。そしてIoTやAIは、それを解決する手段として捉えることです。DXを推進することやAIを活用すること自体が目的になっているようではうまくいきません。
二つ目は、経営層がDXの可能性と限界について正しく理解した上で、強いリーダーシップの下、DXを徹底して進めることです。
DXがうまくいっている企業の社長や社長の右腕となるような方々は、もともとITが専門外だったとしても、とても熱心にITについて学んでいる方が少なくありません。自分でシステムを作ってしまう人もいるくらいです。最近ではいろいろと学びの場があるので、経営層にはそういった場に足を運ぶことをおすすめしています。
三つ目は「現場を巻き込む」こと。現場のスタッフが、自社のDXの取り組みを「自分たちとは関係ない」と考えているようでは絶対にうまくいきません。
DXを現場にとっての「自分ごと」にするには、DXの取り組みが業務の効率化や生産性の向上につながり、自分たちのリアルなメリットとして体感してもらうことが重要です。例えば、現場の要望をすぐにシステムに反映して、翌日にそれを現場にフィードバックするくらいのスピード感で取り組めば、現場は「こんなにすぐに良くなるんだ」と思うはずです。
四つ目は、「会社全体でDXを推進していこう」という企業風土づくりです。改善や改革に積極的な文化を持つ会社なら、最新のテクノロジーを活用することでDXを進めやすくなると思います。
改善や改革が文化として根付いていない企業でも、デジタル技術を使った成功体験が文化を変えていくケースが少なくありません。SaaS(Software as a Service)など、安価で導入しやすいサービスやツールが登場している今はDX推進の絶好のチャンスと言えるでしょう。
五つ目は、自社で成功したシステムの事例を他の企業に共有し、横のつながりを作ることです。
昨今では同じ地域、同じ業種の中小企業同士が、導入に成功したツールや自社で開発したツールを互いに紹介し合える場が増えています。
こうした場で積極的に自社のシステムや事例を紹介する企業はDXが成功しているケースが多いですね。情報は与えた人の所に集まるので、自社の情報を公開すればするほど、同じ志の仲間が集まってきます。
こうしてできたコミュニティーに集まる人たちが、自社の実体験に基づいたシステムやサービスの情報を共有し、学び合うことで、中小企業のDXが広がっていくと思っています。
出典:取材を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――ここ数年で、ノーコードツールや生成AIといった新たな技術が登場するなど、テクノロジーは加速度的に進化しています。こうしたテクノロジーをどのようにDXに生かせばよいのでしょうか。