2024年 7月 2日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

人の力を最大化する「自律型組織」(前編)

企画・編集:JBpress

大学ラグビー9連覇の名将に学ぶ、「勝ち続ける組織」のつくり方

毎年、入学や卒業でメンバーが入れ替わる学生スポーツの世界で結果を出し続けるのは容易ではない。その常識を打ち破り、帝京大学ラグビー部は、全国大学ラグビー選手権で2011年から9連覇を果たした。そんな常勝チームをつくったのは、当時、監督を務めていた岩出雅之氏だ。長い年月をかけて古い組織構造の問題を見直し、試行錯誤しながら積み上げてきた「変化に柔軟に対応できる組織のつくり方」と「人が自らの能力を最大限に発揮するための方法論」とはどのようなものなのか。ビジネスの世界でも通用する、これらのメソッドについて岩出氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。

  • ※ 7月16日公開予定:人の力を最大化する「自律型組織」(後編)

脱・体育会系縦型組織で常勝チームに

――大学ラグビー選手権9連覇という実績につながる要因となった組織改革は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

岩出 1996年にラグビー部の監督に就任した私は当初、勝利を目指して自ら先頭に立ち、選手たちにこと細かに指示を出してがむしゃらにチームを牽引していました。

しかし、どれだけがんばっても伝統校に勝てなかった。厳しい練習を重ねて、選手たちも技術的に成長しているのに、どうしても勝てない日々が続いていたのです。そんな中、4年生にとって大事な試合である関東大学対抗戦の最中に、1年生の部員が「負ければいいのに」とつぶやいていたと耳にしました。

勝てないだけでなく、チームの中に不満を持つ選手がいて、一丸となって戦おうという気持ちにさえなっていない……。そんなチームをつくってしまった自分が情けなくなりました。

それから「なぜ、勝てないのか」「なぜ、一丸となって戦うチームづくりができないのか」という事実と正面から向き合うようになり、「自分の指導方法に原因があるのではないか」と考えるようになっていったのです。

これが、リーダーを頂点にアメとムチで従わせる「センターコントロール型組織」の限界に気づいたきっかけです。

――先生が帝京大学ラグビー部に取り入れた「自律型組織」とはどのようなものなのでしょうか。

岩出 ひとことで言うと、組織に所属するメンバーそれぞれが自ら頭を使って考え、行動し、仲間と助け合いながら成長していく組織です。

「組織として達成したいことは何か」を決めるのはトップの役割ですが、こと細かな指示は出さず、それを達成するための組織運営は、現場のリーダーに任せます。

つまり、トップが圧力をかけて部下を従わせるのではなく、目標を達成するための方法は、リーダーやメンバーが自分ごととして自律的に考え、行動する、というやり方です。

人は自らの意思で考え、決めたことにはやりがいを持って取り組むことができます。これは仕事でも同じで、楽しんで仕事ができるようになり、仕事を通じて成長できるようになるはずです。自律的に考え、行動するメンバーが助け合って目標の達成を目指す組織は、組織としても自律的に成長していくことができるのです。

リーダーを頂点とする「縦」の組織から、仲間とコミュニケーションをとりながら自分で考える「横」の組織へ。
出典:岩出雅之氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成

――自律型組織とそうではない組織を分ける要因の一つとして、先生はアメとムチ方式のマネジメントを挙げています。いまだアメとムチ方式で組織運営している企業も少なくないですが、なぜ、そのような状況が変わらないのでしょうか。

岩出 部下のやる気を引き出すコミュニケーションをするよりも、トップダウンの「いいからやれ」という命令に従う人を優遇し、従わない人を罰する方がシンプルに実践できるからではないでしょうか。単に昔から企業に根付く「上がラクする」マネジメント手法として、惰性で続けている場合もあるでしょう。

しかし、このようなマネジメントは、一人一人のメンバーと丁寧に向き合う必要がありますし、定着するまでには長い時間がかかります。会社がよほど危機的な状況に陥らない限り、なかなか変えようとは思わないのかもしれません。

人によって得意なことや不得意なことは異なるので、社員それぞれの個性やスキルを観察したうえでやる気が出るような仕事を頼んだ方が、社員のモチベーションが上がりますし、生産性も向上するはずなんですけどね。

アメとムチのマネジメントの問題点

――アメとムチ方式を採用している経営者は、これまでの考え方をどのように変える必要があるのでしょうか。