この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
なぜ、CNの取り組みがビジネス継続に欠かせないのか
――そもそもCNとは何なのでしょうか。
夫馬 CNとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。実質ゼロとは、仮に石油を燃やして二酸化炭素を発生させたとしても、一方で植物を育てるなどして二酸化炭素を削減することで、温室効果ガスの排出量をプラス・マイナス・ゼロにすることを意味します。
世界中で多くの科学者が、気候変動の原因は人間社会が排出する温室効果ガスであることに「疑う余地がない」と結論付けていることから、世界的にCN対策の取り組みが加速しています。
日本で温室効果ガスが最初に注目されたのは、1997年の京都議定書がきっかけです。この議定書では「2012年までに1990年と比べて温室効果ガスを6%削減する」という目標が設定されました。この目標値は大企業だけの取り組みで達成できるレベルだったことから、中小企業など多くの企業はひとごととして捉えがちでした。
日本で本格的にCNが重視されるようになったのは、それから20年以上たってからのこと。2020年10月に当時の首相、菅義偉氏が「2050年にCNを目指す」と国会で宣言したのがきっかけでした。
この時、2050年のCN実現に向け、2030年までに2013年比で46%(1990年比で40%減)の温室効果ガスを削減する中間目標も定められました。京都議定書で発表された目標と比べてはるかに高いハードルです。
この目標は、企業が少しお金をかけて小規模な省エネ対策をしたり、こまめに電気を消したりする程度では達成できません。抜本的に産業を変革しなければならなくなりました。そして国内全体でCNを達成するためには、多くの中小企業も当事者となり巻き込まれていきます。こうして、かつてない規模でCN対策が進められることとなりました。
――中小企業のビジネスにはどのように影響してくるのでしょうか。
夫馬 まず理解すべきは、世界的に機関投資家がCNに対する賛意を明確にしている点です。
2021年にグラスゴーで開かれた国連のCOP26では、多くの投資家や銀行、保険会社が「投資先や融資先に2050年までのCN実現を求める」と表明しました。機関投資家は、気候変動を放置すれば将来的に社会が混乱し、経済にも大きな影響があると理解しています。機関投資家の覚悟は、主要国の政権交代にも動じないレベルになっており、特に上場企業に対する大きなプレッシャーになっています。
こうした機関投資家の意向を受け、世界的に大企業が温室効果ガス排出量を削減し始めています。ここでポイントになるのがサプライチェーンです。いまや世界中の大企業か掲げる目標は、自社だけでなく、取引先も含めたサプライチェーン全体で温室効果ガスを削減することとなっています。日本でも、菅元首相の宣言以来、大企業がサプライチェーンを含めたCN目標を設定し始めています。
自動車業界や建設業界では既に下請け企業への協力の要請が始まっており、CNに取り組まないと、取引上のリスクになる可能性があります。このように、CNへの取り組みは中小企業にとっても無関係ではなくなっているのです。
一部の企業が工場を売却するなどしてその企業単体でCN目標を達成したとしても、世界全体の温室効果ガス排出量が減っていなければ意味がない。サプライチェーン全体の取り組みとして、主に大企業から取引先企業への対応要請が進むことになる。
出典:経済産業省関東経済産業局「カーボンニュートラルと地域企業の対応<事業環境の変化と取組の方向性>」を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――日本企業は米国や欧州、中国の企業と比べてCNに向けたアクションがさほど進んでいない印象があります。実態はどうなのでしょうか。