この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 1月21日公開予定:AIで未来はどう変わるのか(後編)
ドラえもんのようなAIが登場する日が来る?
――一口にAIと言ってもさまざまですが、先生が実現を目指す「自律・汎用(はんよう)型AI」とはどのようなものなのでしょうか。
栗原 シンプルに分かりやすく例えるなら、ドラえもんのイメージです。ネコ型ロボットのドラえもんは、人間の指示に従うわけではなく、決められたタスクの範囲内で動くわけでもありません。ぐうたらなのび太くんのわがままには取り合わないし、その一方で、いつも問題の解決につながる道具を提案してくれます。
もう少し現実に沿って具体的にお話しすると、日本の文化である「おもてなし」の例が分かりやすいと思います。
例えば、ホテルで接客をするスタッフは、お客さんが何を求めているかを状況に応じて判断し、適切なタイミングで行動します。初めて来たお客さんを見かけたら、チェックインカウンターに案内するでしょう。暑い日でお客さんが汗をかいていたら、冷たい飲み物を勧める場合もあるかもしれません。
このように、相手から指示を受けなくても、場の空気を読み、相手の状況を見て予測して行動するのが「自律的・汎用的である」ということです。現在のAIやテクノロジーは、人間が指示をしないと動きませんが、人間の指示なく自律的・汎用的に行動できるのが自律・汎用型AIということになります。
人間のように予測し、試行錯誤しながら行動できる自律・汎用型AIを開発することは、AI研究者たちの一つの目標となっています。
おもてなしは、今のところ高度に自律的・汎用的な人間にしかできない。
出典:栗原聡氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――それほど高度なAIは、いつ頃実現するのでしょうか。
栗原 最近は、ChatGPTのような生成AIが、自ら別の生成AIとやりとりするようなAIエージェントという技術が注目され始めています。具体的には、生成AIが「エンジニアとして考える生成AI」や「教師として考える生成AI」といったエージェントとして振る舞うイメージで、これらのエージェントが役割に応じて互いにやりとりしながら最適な答えを探るような使い方が出てきているのです。
こうした技術の進展によって、自律・汎用型AIの研究も進んでおり、5~10年もすればかなり進化していると考えられます。「いつ実現する」というよりも、徐々に進化して少しずつ社会に浸透していくと言った方がイメージに近いかもしれません。
「常識」を扱えるようになったことでAIが身近な存在に
――AIは、過去にもブームになったことがありました。かつてと比べて、現在のAIは実用性や進化の速度が大きく異なるようですね。