2025年 1月21日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

AIで未来はどう変わるのか(後編)

企画・編集:JBpress

AIの能力を引き出すために経営者が磨くべき素養とは

AI (人工知能)が急速な進化を遂げる中、企業はビジネスにどのような形でAIを取り入れるべきなのか。また、AIのポテンシャルを引き出すために、経営者にはどのような素養が求められるのか。人工知能やネットワーク科学の研究で知られる慶應義塾大学理工学部教授の栗原聡氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

AIを活用するうえで注意すべきこと

――中小企業でAIを活用するには、何から始めれば良いのでしょうか。

栗原 中小企業がAIを活用するときは、いきなり生成AIに飛びつくのではなく、まずはDX(デジタルトランスフォーメーション)に注力することをお薦めします。

中小企業においては、まだデジタル化が進んでいないケースも少なくないでしょう。まずは、これから自社のビジネスをどうしていくのか、それを実現するために何をすべきか、というDXの基本から始めるのが良いでしょう。企業として目指す方向を決めてから、それを達成するために必要であればAIを使えば良いのです。

AIを導入することになったら、まず、自社の業務をよく理解している社員を一人、AI研修に参加させ、その社員が中心となって導入を進める体制を整えるのが効果的です。現場を理解している人材がAIを習得することで、企業の実態に合ったAI活用が可能になります。

導入に際して注意すべきは、AIに対して抵抗感を抱きがちな中間管理職の存在がハードルになりかねない点です。彼らは長年蓄積したノウハウがAIに脅かされると感じることも少なくありません。AIをライバル視しないよう、正しく理解するための教育環境をつくることも重要です。

――経営者は、AIとどう向き合えば良いのでしょうか。

栗原 私は、経営者が無理してAIについて学ぶ必要はないと考えています。そんなことをしている時間があったら、むしろ経営者としての能力を磨くべきでしょう。例えば、多角的なものの見方に基づくシミュレーション能力や、アイデアを掛け合わせて新たな価値をつくる能力です。想像力を要するこうした領域は、少なくとも今のところAIには不向きだからです。

もし、経営者が生成AIを使うとしたら、今後のビジネスを考える際の「壁打ち」相手にすると良いでしょう。新しいサービスや商品を考える際に、対話を通じてアイデアの幅を広げる活用法は有効です。

「壁打ち」(IT用語辞典|大塚商会)

こうした使い方をする際には、AIに過度に依存しないことがポイントです。「どうすれば良い?」と雑に問いかけるだけでは、AIから有意義なアドバイスを引き出すことはできません。「前提としてこのように考えているが、メリットとデメリットを5点ずつ挙げるとすればどのようなものがあるだろう?」というように、自分の考えを持ったうえで問いかける姿勢が必要となります。

AIとの共生で成果を上げるためには、AIを使う人間の好奇心や向上心が不可欠です。使い手が積極的であるほどAIは能力を発揮します。経営者が意思を持ってAIに問いを立てることで、新たなビジネスチャンスを見つけることができるのです。

人間とAIが共生していくために重要なのは「人間力」

――先生は、AIを活用するに当たり、効率化や機械化に固執するのではなく「あくまでも人が主役であるべき」と言われています。