この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 2月18日公開予定:日本と世界で全く違う? 成果につながる雑談とは(後編)
雑談を「雰囲気づくりのための潤滑油」にするのはもったいない
――『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』を執筆しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
ピョートル 日本人ビジネスマンと接する機会を持ち始めた頃、多くの日本人が雑談のタイミングで「今日は暑いですね」などと、天気の話をすることに違和感がありました。
今では、日本においては、天気の話が会話を始めるときの常とう句であり、形式を重んじる日本文化が背景にあることを理解しています。和を大事にする日本人が、当たり障りのない会話内容を選ぶことも分かります。ハイコンテクストで多くを語らない点は、日本文化の魅力でもあります。
ただ、ビジネスの場では意識を変えるべきでしょう。私の感覚では、商談が始まる前に、天気のようなどうでもいい無駄話をされたら、「この人は私に興味がない」「この商談を成功させる気がない」と受け取ります。
多くの日本のビジネスマンは、雑談を「本題に入る前のイントロダクション」「雰囲気づくりのための潤滑油」と捉えています。しかし、世界のビジネスシーンで一流のビジネスマンが交わす雑談は、成果を出すことを意識した「対話」です。この違いを日本に紹介する必要があると考えました。
――世界のビジネスシーンで交わされている、成果につながる雑談とは、どのようなものなのでしょうか。
ピョートル 心理学の用語に、相手との間に築かれる信頼関係を意味する「ラポール(Rapport)」という言葉があります。世界のビジネスマンが交わす雑談は、このラポールを作ろうとするものです。ビジネスの本題に入る前に、会話の中で適切に自己開示をしながら、双方が相手を理解して関係性を深め、タスクを達成しやすくするのです。
例えば顧客との商談で価格交渉をするとき、こちらと顧客のビジネス上の関係はいわば敵対関係にあります。ですが、個人対個人の雑談を経ていれば、短絡的な敵対とは異なる関係性になり、フレキシブルに話し合えるようになります。より良いゴールに到達したいのであれば、まず、ラポールを作ることを優先すべきなのです。
世界のビジネスマンは、最終的に成果を出すための第一ステップとして、目の前の相手とラポールを作ることを目指している。
出典:『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』よりJapan Innovation Review編集部で作成
日本のビジネスシーンで雑談が「とりとめのない会話」になってしまう理由には、人を役割で見る傾向が強いこともあると思います。顧客と営業担当、上司と部下、それぞれがビジネス上の役割に徹していて、積極的に個人同士の信頼関係を築こうとしません。
日本には、飲み会のような場で信頼関係を築こうとする習慣がありますが、そうした場や時間が確保できなければ、アイスブレーク(場の雰囲気を和らげること)しない関係性のままで一緒に仕事をすることになります。そんな状態では建設的な話し合いができず、良いアウトプットは出せないでしょう。私からすれば、そんな仕事の時間は拷問のようなものです。
ビジネスをスムーズに進めるには、ビジネス上の関係性の前に、個人と個人の関係性が不可欠です。雑談は、相手との関係性構築のための最適な機会なのに、どうでもいい会話で終わらせてしまうのはもったいないことなのです。
雑談をするチームは生産性が高い。「社内雑談力」をどう高めるか
――そう考えると、国際的にも指摘される日本の労働生産性の低さには、働く人同士の関係性が影響しているのかもしれませんね。