2025年 4月 1日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

ものづくり企業のDX人材の育て方(前編)

企画・編集:JBpress

最も重要な人材は「橋渡し役」。育成における三つのポイントとは

社会構造やビジネスモデルの急激な変化によって、かつての競争力を失いつつある日本の製造業。その影響は中小企業にも及び、多くの企業がこれまでのやり方では立ち行かなくなるという危機感を抱えているが、製造業のIT化を支援する早稲田大学の吉江修教授は「今こそ中小企業が飛躍するチャンス」と指摘する。ものづくりに携わる企業の課題と、ピンチをチャンスに変えるための考え方について吉江氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。

  • ※ 4月15日公開予定:ものづくり企業のDX人材の育て方(後編)

社会構造の変化はものづくり企業が生まれ変わるチャンス

――社会の構造やビジネスモデルが急速に変化する中で、ものづくりに関わる中小企業はどのような課題に直面しているのでしょうか。

吉江 これまで日本の製造業を支えてきた中小企業の多くは、大企業の傘下で安定した収益を得てきました。下請けとして大企業の求める品質を満たしながら製品を供給することで、日本の製造業全体の競争力を支える役割を担ってきたのです。

しかし近年、大企業の競争力が徐々に低下してきた影響が、中小企業にも広がっています。従来の下請け構造のままでは、価格決定に関与できないなどの理由で、大企業の業績に依存せざるを得なくなってしまう。受注減やコスト削減の圧力が強まれば、安定した経営を維持するのは難しくなっていくでしょう。

一方で、グローバル化や第4次産業革命の進展は、中小企業にとって新たなチャンスを生み出しています。日本の製造業を支える中小企業は、高い技術力を持つ企業が多く、国内外の新たな取引先を開拓する機会も増えています。しかし、新たな市場で競争力を発揮するためには、これまでのやり方を見直す必要があります。

例えば、スピーディーな見積りや、顧客のニーズに応じた柔軟な製品カスタマイズが求められる中、従来のように「勘や経験」に頼るだけでは、対応が追いつかなくなります。これからの製造業では、「親会社の仕様に従って製品を作る」受動的な経営から脱却し、「自ら考え、主体的に行動する」能動的な経営へとシフトすることが求められます。

今、中小企業が直面している最大の課題は、いかに自立する力を身につけるか、だと言えるでしょう。

――グローバル化や第4次産業革命の過程で、デジタル化が必須になっています。中小のものづくり企業がデジタル化を進める際に、特に重要なポイントは何でしょうか。

吉江 DXを推進する上で最も重要なのは、経営者が明確なビジョンを持つことです。DXは単なる業務の効率化ではなく、企業の競争力を高め、将来の成長を実現するための取り組みです。そのため、現状の延長線上での改善にとどまらず、時にはこれまで築き上げてきたビジネスモデルを見直し、新たな成長領域へ踏み出す決断が求められることもあります。

こうした大きな変革を実現するには、社員の理解と協力が欠かせません。経営者は「なぜDXを進めるのか」「DXによって会社はどう変わろうとしているのか」という目的を明確にし、それを繰り返し社員に伝え続けることが重要です。

次に大切なのは、自社の現状を正確に把握することです。DXを推進するには、新しい技術を導入するだけでなく、「どの部門に、どのようなスキルを持つ人材がいるのか」「誰にどの役割を任せるべきか」「不足しているスキルをどう補うべきか」といった点を明確にする必要があるからです。

しかし、多くの企業ではこうした組織の実態を十分に可視化できておらず、DXの推進に必要な人材配置やスキル開発の具体策が不明確なまま進めてしまうケースが少なくありません。まずは自社の人材やスキルの状況を正しく把握し、戦略を立てることが重要です。

また、現場のデジタルへの抵抗感を取り除くことも大きな課題です。製造業では、長年培ってきた「勘と経験」に基づく仕事の進め方が重視されてきました。そのため、新しいデジタル技術の導入に対し「これまでのやり方のほうが確実だ」といった意識が根強く残っている企業も少なくありません。

この壁を乗り越えるには、現場の(特に熟練の)スタッフがデジタル技術の価値を実感し、「デジタル化が自分たちの仕事をより良くするものだ」と理解できるような工夫が必要です。

DXに欠かせない「橋渡し役」人材とは

――DXを推進し、イノベーションを生み出すには、それを担う人材の存在が欠かせません。先生は、AIやデータサイエンスの専門家を育成すること以上に、ITの専門家と対等に会話ができる(=橋渡しができる)人材の育成が重要だと指摘しています。