この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 4月21日公開予定:激変する国際情勢をどう読み解く?「地政学リスク」(後編)
地政学リスクをどう理解すればよいのか
――世界情勢が激変する中、地政学リスクという言葉を耳にする機会が多くなっています。ビジネスの環境も変わりつつありますが、国際関係の変化に起因するリスクをどう見ればよいのでしょうか。
井川 地政学リスクは、国家が自国の安全を確保するために軍事力や同盟、領土を巡って競い合う中で生じます。戦争や紛争に限らず、大国間の緊張の高まりや勢力圏の変化、同盟関係の揺らぎが、国家の生存条件や国家間の力関係、国際秩序の形に影響を及ぼします。
一方で、特にビジネスにおいては、地経学リスクという考え方も知っておくべきだと思います。貿易、資源、金融、先端技術といった経済手段が地政学的な国家間の競争の中で「武器化」されることで生じるリスクであり、経済制裁や輸出規制、供給制限などが政治目的で行われることで、サプライチェーンや市場に不確実性をもたらします。平時と有事の境界線があいまいになってきている国際情勢においては、ビジネス環境が急変する恐れもあり、企業活動においてより注視するべきリスクといえます。
地政学が、国家間の力関係と国際秩序にしかフォーカスしないのに対し、地経学では、より経済面の分析を加え、分析対象に、企業、業界団体、NGO・NPO、自治体などを広く含める点も特徴です。
地経学と似たような意味の言葉としては、経済安全保障が知られています。経済安全保障は、主に、有事に備えて重要物資の供給網強化や技術流出の防止に力を入れる「防御」の政策が先行しています。地経学は、こうした経済安全保障政策を、地政学的な国家間競争において経済を「武器」あるいは「攻め」として利用する概念を含みます。

地経学は、経済的な要素に特化しているだけでなく、経済手段が「武器」として使われるリスクがあるという視点も必要。
出典:取材を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――米中対立のような構図の中に、そうしたリスクがあるということですね。