この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 6月16日公開予定:収益力と企業価値を高める「デザイン経営」の可能性(後編)
「デザイン経営」の性格を決める要素は三つ
――企業価値向上、競争力強化をもたらすデザイン経営とは、具体的にどのようなものですか。
小山 デザイン経営は、その言葉のとおり、デザインを経営に活用する経営手法です。基本的には、企業内にデザインプロジェクトを立ち上げ、CDO(最高デザイン責任者)と経営トップが密に対話しながら、プロジェクトを円滑に進めるとともに将来のビジョンについての意思決定を行います。
デザイン経営におけるデザインの意味を整理すると、「ビジネス上の問題解決」「最終製品の“かたち”の決定」「工学的設計」という三つの意味合いに集約できます。デザイン経営に取り組むならば、企業はまずこの三要素を組み合わせて自社に合ったデザインプロジェクトを定義し、どんどんプロジェクトを立ち上げてサイクルを回しながら、ノウハウをアーカイブしていく必要があります。
しかし日本では、デザインの定義が明確ではないなどの理由で、各社各様の解釈に基づいて実践しているのが実情となっています。
――「ビジネス上の問題解決」「最終製品の“かたち”の決定」「工学的設計」という三要素にはそれぞれどんな特徴があるのでしょうか。
小山 「ビジネス上の問題解決」の中心には米国のデザインコンサルティング会社IDEO(アイデオ)が提唱する「デザイン思考」があります。これは簡単に言うと、「ユーザーの視点に立って、解決策の創出・試作・検証のプロセスを回す」というものです。
例えば、米国IT大手のIBMでは、2012年から2020年までトップダウンでデザイン思考を導入し、ユーザーに寄り添って問題を解決する製品開発やUI(ユーザーインターフェイス)を実現しました。日本でもIT領域ではデザイン経営と言えばUI・UX(ユーザーエクスペリエンス)設計を指しますが、ここにはデザイン思考が強く影響しています。
「最終製品の“かたち”の決定」は、コンセプトに応じて製品に美しい“かたち”を与え、芸術作品のような工業製品をつくるという「工業デザイン」の文脈にあります。これを体現しているのがイタリアで、同国ではデザイナーを「form giver(“かたち”を与える者)」と呼びます。
例えば「フェラーリ90」のデザインプロジェクトでは、市場調査に頼らず、デザイナーの直観に基づいて過去の名作フェラーリのフォルムを体系的に分析・再解釈して、「フェラーリらしさ」を表す新たな“かたち”を創造しました。
「工学的設計」とは、主にエンジンの性能設計や建築物の構造計算などをデザインとして捉えることを指します。美しい“かたち”を追求するよりも、いかにあらかじめ設計したとおりの性能を発揮するかを念頭に置いている点が特徴です。中国が国家レベルで強く推進しており、日本や米国も得意としています。
今、中小企業がデザイン経営に取り組むべき理由
――デザイン経営の実践は、企業にどのような効果をもたらすのでしょうか。