2026年 9月15日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

退職は「始まり」。経営戦略としての「企業アルムナイ」(後編)

企画・編集:JBpress

企業側が得たいものばかり見ていると失敗する。形骸化を防ぐ、企業アルムナイ活性化の条件とは

多くの企業が注目する「企業アルムナイ」だが、その実装には課題が多い。再採用や協業といった企業側のKPIが見え隠れしているようでは、優秀な人材との関係構築がうまくいかないなど、コミュニティが形骸化するリスクがある。関係性を維持するための具体的なアプローチや、中小企業が取り組む際の現実的な手法について、中央大学戦略経営研究科教授の犬飼知徳氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

アルムナイ戦略の第一歩は「良い別れ方」にある

――「良好な関係で別れること」がアルムナイ戦略の出発点だと言われています。多くの企業で、組織から離れる同僚を円滑に送り出すオフボーディングが十分に整備されていない中、まず何から始めるべきでしょうか。

犬飼 退職者との関係は、退職の前から始まっています。研究では、退職時に会社へネガティブな感情を抱いていた人が、その後アルムナイコミュニティに参加する可能性はほとんどないとされています。だからこそ、まず必要なのは、企業側がポジティブに送り出すことです。「これまで頑張ってくれてありがとう」「今後の活躍も応援している」といった言葉をしっかり伝えて送り出すことが、退職後の関係性を築く最初の一歩になります。

そのうえで重要になるのが、「退職後も自然につながり続けられる場」をつくることです。LINEグループでもSlackでも構いません。特別なツールを導入する必要はなく、本人たちが日常的に使っているコミュニケーション手段を活用する方が現実的です。ここで大切なのは、参加者に負荷をかけず、無理なく関係が構築され、維持される状況を設計することです。

「退職者全員を無条件にコミュニティへ招き入れるべきか」という点については、慎重に考える必要があります。コミュニティを広げ過ぎると、結果として関係性が希薄になり、本来つながり続けたい人たちのエンゲージメントまで下がってしまう場合があるからです。最近は、立ち上げ当初はコミュニティの核となるメンバーに優先的に声掛けを行い、「あの人がいるなら参加してみたい」と思える場をつくってから本格的に参加者を募る企業アルムナイも出てきています。

戦略的にアルムナイコミュニティを運営するのであれば、「誰と継続的な関係を築きたいのか」を企業側が意識的に考えることも、実は重要な設計の一部です。

――「退職者=裏切り者」という意識が、いまだに残っている企業も少なくありません。退職を「卒業」と捉え直すためにはどうすればよいでしょうか。

犬飼 まず必要なのは、経営者自身のマインドセットを変えることです。アルムナイ戦略は、経営者が「辞めた後も応援する」という姿勢を本気で持てるかどうかに大きく左右されます。重要なのは、経営者自身が「退職者は裏切り者ではない」「“ウチの経験”を生かして社外で活躍してくれること自体が、この会社の価値につながる」というメッセージを発信し続けることです。そうした考え方を繰り返し言葉にすることで、現場の管理職層の意識も少しずつ変わっていきます。

成功するアルムナイと形骸化するアルムナイの分岐点とは

――退職者とのつながりをつくっても、形骸化してしまう企業が少なくないようです。コミュニティの活性化に成功している企業と失敗している企業の分岐点はどこにあるのでしょうか。