2022年 8月 9日公開

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「知っておきたい“税務調査”〈準備編〉」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

正しく税務申告をしているつもりでも「税務調査」と聞くと不安に感じる人も多いことでしょう。いざ税務調査が入った時、どのよう対応すればよいのでしょう。今回は準備段階を中心に、注意すべきポイントをまとめてみました

税務調査とは

国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等、または税額等を認定する目的、その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で、調査担当職員が行う証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用などをいいます。

税務調査に関する法改正

平成23年度税制改正において、「税務調査の手続きの明確化等」を中心として国税通則法が40年ぶりに改められました。手続きの透明性、納税者の予見可能性を高め、調査に当たって納税者の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施を目指すものです。また、納税者に対する説明責任の強化も図っています。

税務調査に該当する行為と該当しない行為

一口に税務調査といっても、下表のように「調査に該当する行為」と「調査に該当しない行為」があります。後者での修正申告等があった場合は「更正もしくは決定、または納税の告知があるべきことを予知してなされたものにあたらない」こととして取り扱われます。そうなると加算税の税率も異なってきます(注1)。

調査に該当する行為
(1)更正決定等を目的とする一連の行為
(2)異議決定や申請等の審査のために行う一連の行為
(3)調査には該当するが、事前通知および終了通知が行われないもの
a.更正の請求に対して部内の処理のみで請求どおりに更正を行う場合の一連の行為
b.期限後申告書の提出または法定納期限後に源泉徴収に係る所得税の納付があった場合において、部内の処理のみで決定または納税の告知があるべきことを予知してなされたものにはあたらないものとして無申告加算税または不納付加算税の賦課決定を行う時の一連の行為
調査に該当しない行為
(1)提出された納税申告書の自発的な見直しを要請する行為
(2)税法の適用誤りがある納税義務者に対して、必要に応じて修正申告書または更正の請求書の自発的な提出を要請する行為
(3)納税申告書の提出がない納税義務者に対して、必要に応じて納税申告書の自発的な提出を要請する行為
(4)源泉徴収税額の納税額に過不足徴収額がある納税義務者に対して、源泉徴収税額の自主納付等を要請する行為
(5)源泉徴収税額の納税がない徴収義務者に対して、必要に応じて源泉徴収税額の自主納付を要請する行為
  • (注1)「加算税」については以下のバックナンバーを参照ください。

「知っておきたい“税の罰金”~加算税の基本」の巻

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税務調査の流れ

調査の流れと事前通知

調査の流れは下のチャートの通りです。原則として電話により口頭で事前通知があります。しかし、「違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準または税額等の把握が困難になる恐れがある」と判断された場合、事前通知なしにいきなり調査に入るケースもあります。

事前通知の内容

調査の開始日、場所、調査の対象となる税目、課税期間、調査の目的など。調査日程については、納税義務者側の都合に合わせて調整してもらうことも可能です。

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事前準備

調査の日時が決まったら、帳簿関係書類の準備に取りかかりましょう。用意しておくべき書類は次の通りです。

基本的な資料

  • 会社パンフレット
  • 組織図(簡単なものでよい)
  • 社員名簿(直近のもの)

直近3期分の資料

  • 法人税申告書
  • 消費税申告書
  • 総勘定元帳
  • 預金通帳(原本)
  • 売上請求書ファイル
  • 支払請求書・領収書ファイル
  • 棚卸明細表
  • 源泉徴収簿(扶養控除申告書、保険料控除申告書等)
  • 賃金台帳
  • 契約書ファイル(印紙貼付済みのもの)
  • その他必要と思われる書類

注意!

期末付近において、他の取引より金額が多い取引にまつわるエビデンス(請求書・契約書、入出金状況の分かる資料など)は必ずチェックされると思っておきましょう。また契約書への収入印紙が適正に貼付されているか事前に確認しておくことも必要です。

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実務上の注意点

税務調査を受け入れる上で一番大切なことは、事前準備です。事前準備ができていないと、資料の提示が遅れてしまい、帳簿類の整備状況に疑念を抱かれかねません。また、調査の進行が遅れることによって、本来の日数より多く時間がかかってしまうことにもなります。

事前準備のポイント

  1. 質問されそうな事項はリスト化し、顧問税理士と想定問答をしておく(注2)。
  2. 調査官から提示を求められた書類だけを提示すればよい。事前に準備した資料は別室に置いておき、調査官から提示を求められたら持参するようにする。
  3. 税務調査が実施されること、調査日、調査場所などは社内で情報共有しておく。
  4. 金庫(銀行の貸金庫も含めて)の中の書類等は整理しておく。
  • (注2)成果物がないコンサルティング料や多額の外注費、取引関係が複雑なものについては、メールでのやり取りや取引関係図などを整備しておき、「取引実態と金額の妥当性」を調査時にすぐに説明できるようにしておくことも肝要です。

調査段階での注意点

(1)不確かな項目は精査して後日回答する

過去の取引などについて質問されて、記憶や記録があいまいで正確に回答できなかった場合はそのままにせず、精査して翌日以降回答できるようにしておく。

(2)質問の意図を考えて回答する

税務調査官が「何を意図して」その質問をしているかを考える。例えば、「社長の奥さんの机はどこにありますか?」、「社長の奥さまの業務内容を教えてください」などと質問してきた場合は、社長の妻の勤務実態と給与額が適正かをチェックしていると考えられます。

(3)社長が同席する場合は要注意

社長がじかに調査官と対面する際のポイントは「聞かれたことだけに答えること」です。サービス精神旺盛な社長の場合、税務調査といえどもおしゃべりになりがちだからです。“デキル”調査官ほど「聞き上手」です。メモも取らない世間話だと思わせておいて取引先との付き合いまでを巧みに質問してくるので要注意です。

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Q&A事例集

Q1. 税務調査に来る調査官は何人くらい?

来社する税務調査官の人数は事前に教えてもらうことが可能でしょうか?

A1. 1~2名または2~4名程度が一般的

当日変更になる場合もありますが、1~2名または2~4名程度が一般的です。事前通知時に「部屋の用意があるので調査官の人数を教えてください」と尋ねておくとよいでしょう。

Q2. 調査当日、社長の同席は必要?

税務調査の当日、社長は取引先との打ち合わせでどうしても外出しなければいけない予定があります。社長は税務調査に同席する必要はありますか?

A2. 要所要所で社長が同席を

まずは調査官に社長のスケジュールを伝え、社長あての質問などがあれば最初だけ同席して対応してもらうようにしましょう。会社概要などの説明が終わり、帳簿の提示や取引の説明の段階になったら、税理士と経理担当者で対応して構いません。ただし、調査官から「連絡が取れる状態にはしておいてください」と言われることがありますので、適宜対応してください。調査終了日も調査官から説明があるので、その際も社長同席のもと税務署の見解を一緒に聞いてもらったほうがよいでしょう。

Q3. 調査官の昼食やお茶の用意は?

税務調査官のお昼の食事は用意する必要はありますか? またお茶の用意も必要でしょうか?

A3. 食事の用意は必要ありません

お茶は用意してかまいませんが、ペットボトルや缶コーヒーなどの「市販の商品」よりも、急須で入れたお茶やインスタントコーヒーを紙コップ等で提供するほうが無難でしょう。

Q4. 調査当日、担当者が不在で……

調査で質問が集中しそうな案件があります。調査当日は、その担当者が不在で、経理担当者だけでは取引内容の説明がすぐにできません。どうしたらよいでしょうか。

A4. 後日にできるだけ早く回答を

時間がたって分からない過去の事実など、担当者が不在ですぐに回答できない場合は、その旨を調査官に伝えてください。その上でできるだけ早い時期に回答するようにしましょう。なお、「調査の核となる質問」ではない場合は、「分からなければそれでよい」ということもあります。

Q5. 税務調査が取引先に知られるのでは?

当社に税務調査が入っていることが取引先に知られることはありますか?

A5. 相応の理由があれば取引先に調査が及ぶことも

取引内容に相当の疑義がある場合(証拠書類が不十分、架空取引の疑念があるなど)、取引先にその取引実態や納品物、証拠書類の提示を求めることがあります。これを反面調査といいます。ただし、税務調査の手続きにおいても「取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分に検討する」としており、相応の理由がない限り反面調査は実施されないと考えられます。

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まとめ

今回は税務調査の流れと事前準備を中心に解説しました。税務調査は原則として事前通知はあるものの、通知後おおむね2週間以内に実施されることが多いといえます。複雑な取引や金額が大きい取引については、取引の経緯が分かる概要などを作成しておくと、調査当日に適切に説明できます。

税務調査は、決算・申告・納税が完了した後にやってきます。毎決算後、帳簿類、証憑類の保存をしっかりしておくことにより、事前準備の手間が省けます。また、一度に3年分まとめて調査するのが一般的ですので、常日頃から税務調査を意識した書類の整理と保存、説明準備をしておくことがとても大切です。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/田中章仁(たなかあきひと)

プロフィール

1974年生まれ。神奈川県出身。東京税理士会渋谷支部所属。個人事業主から中小企業まで幅広くサポート。モットーは「共に悩み、共に喜ぶ」。週末は少年野球の監督も務める。4児の父。

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