b8taが売るのは「体験」と「発見」
店舗での販売を主目的としない。店舗に在庫を置かない商品もあり、購入希望者には近くの別店舗やネットショッピングを紹介する――。こんな変わったコンセプトを掲げる米国発の店舗「b8ta(ベータ)」が日本での事業を拡大している。2020年8月に国内初出店した2拠点(東京・新宿と有楽町)には、当初の1年間(2020年8月1日~2021年7月31日)に延べ45万人以上が来店。その実績を踏まえ2021年11月には3店目を東京・渋谷に開設した。これまでの出品企業は250を数え、出品商品は500を超える。出品企業には新基軸を打ち出す新興企業も多いが、花王やNTTぷらら、カインズ、日産自動車、ロート製薬といった有名ブランドも名を連ねる。
2021年11月にオープンしたb8ta Tokyo – Shibuya
(写真:菊池 隆裕。以下、特記ないものは同)
商品を売らないとすると、b8ta店舗の役割は何か。来店する消費者にとっては「体験」と「発見」の提供だ。b8taの店頭に並ぶ商品は一定の期間で入れ替わる。このため、消費者は来店することで新しい商品を体験し新しい機能を発見する機会を得る。「思いもよらない機能を持った商品と出会える場」が、b8taということになる。
一方、出品企業にとってb8taは、顧客に関するデータや知見を取得する場であり、それらのデータや知見は今後の製品開発や販売戦略に活用できる。顧客データを得る対価として1区画(幅約60cm×奥行約40cm)につき月額約30万円を出品企業から得るというのがb8taのビジネスモデルになる。冒頭で紹介した「販売を主目的としない」という理由は、店頭で商品が売れても売れなくてもb8taの売り上げには一切関係ないからだ。
b8taをうまく活用して事業拡大に成功した例を2つ紹介しよう。
1つめはlaboratoryが展開するスキンケアブランドの「AGILE COSMETICS PROJECT」。b8ta出品以前はオンライン販売が主体だったが、商品の特性上、商品を実際に体験できる場としてb8taへの出品を決めた。
同社としても従来から商品フィードバックを集めていたものの、そのフィードバックは女性層からの声や購入後の体験談が多くなる。男性層や未購入の人たちなど自社では得られないフィードバックに期待したのだ。
出品することで予想外の発見もあった。b8taに出品する前は、少量を試すことができるトライアルキットに店頭販売の売り上げが集中するのではないかと予想していたものの、実際にはフルサイズの商品が売れたのだ。実際にどのような消費者が買っていくのか聞いてみたところ、既に同ブランドを認知している消費者が実際に来店し、商品を試したうえで納得して購入していくということが分かった。
b8taに出品するスキンケアブランド「AGILE COSMETICS PROJECT」
(出所:laboratory)
もう1つが、快眠のための枕「Brain Sleep Pillow」。メッシュ状になっているため手軽に洗うことができ、形状記憶機能があるのが特徴の商品だ。開発元であるブレインスリープはもともとオンラインで販売してきたが、あるタイミングで「ブレインスリープ 店舗」「ブレインスリープ 体験できる場所」といった検索ワードを入力する人が増えてきたことを知る。そこで枕の硬さや高さなどを実際に体験してみたい人が自分に合う商品を確かめる場所として、b8taへの出品を始めることになった。関心の高まりを見極めて「体験から購入へ」という動線をうまく作り出すことができた例ということになる。
ブレインスリープの枕「Brain Sleep Pillow」
(写真:ブレインスリープ)
データの分析とその後の行動変容提案が価値
一般にショッピングモールや百貨店では「販売スペース」から対価を得る。一方、b8taの場合には1商品に割り当てられる「区画」だけでなく、来店した顧客に関するデータが提供されるのが特徴だ。