2023年 7月25日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

革新的な“蓄電池”でエネルギー問題解決に挑戦

企画・編集・文責 日経BP総合研究所

ヤッパ創業者が打つ「自然エネルギーの爆発的普及」への一手

革新的な蓄電池の開発を中核としたビジネスモデルで、産業界で大きな期待と注目を集めているのが再生可能エネルギー(再エネ)のスタートアップ「パワーエックス」である。自然エネルギーを「貯める」「使う」「運ぶ」という独自の事業展開と、現在建設中の国内最大規模の蓄電池工場について、生産統括部生産管理シニアマネージャーの井上高成氏に話を聞いた。

パワーエックスの取締役 兼 代表執行役社長CEO 伊藤正裕氏
写真提供:(株)パワーエックス

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

創業者は17歳で起業したZOZOスーツの生みの親

パワーエックスは2021年3月、伊藤正裕氏が創業した再エネのスタートアップである。蓄電池の製造を軸として、蓄電池の販売、EV(電気自動車)充電ステーション、電気運搬船の3つの事業を展開している。

伊藤氏は2000年、当時17歳でヤッパを創業。3D技術を利用した同社のコンテンツ制作ソリューションは自動車、電機、小売り、通信、出版など幅広い業界の支持を得た。2014年、スタートトゥデイ(現ZOZO)に発行済みの全株式を売却し、同社の傘下に入ると、ZOZOテクノロジーズの代表取締役CEOに就任。ZOZO取締役兼COOなどを歴任し、グループのテクノロジーとイノベーションを牽引した。その業績はZOZOスーツ、ZOZOグラスの開発者としても知られる。

全人類の課題ともいえるカーボンニュートラルの実現には、再エネの効率的な活用が重要なカギを握る――そう考えた伊藤氏は、既存の技術を組み合わせることで、パワーエックスのビジネスモデルを発案し、起業に至ったという。

パワーエックスの経営陣には、バイオベンチャーのヘリオスを創業した鍵本忠尚氏をはじめ、元テスラの幹部、元グーグルの幹部など、そうそうたるメンバーが名を連ねるほか、商社、電力会社、造船会社、メガバンクなどがビジネスパートナーとして出資。累計資金調達額は100億円を超え、その期待の大きさがうかがい知れる。

自然エネルギーを「貯める」「使う」「運ぶ」3つの事業

パワーエックスが2030年のミッションとして掲げる「自然エネルギーの爆発的普及を実現する」ために、自然エネルギーを「貯める」のが、蓄電池販売事業である。

「蓄電池に注目した背景には、やはり脱炭素のメガトレンドがあります」。こう切り出したのは、生産統括部生産管理シニアマネージャーの井上高成氏。国として、電源ミックスの構成を大きく変えて、2030年に再エネの比率を約4割まで引き上げる目標がある。その中心を占めるのが太陽光発電だ。しかし現状では、余剰が発生し廃棄されていたり、発電時間が日中に限られるため、需給のバランスが崩れてしまったりしている。

パワーエックス 生産統括部 生産管理シニアマネージャーの井上高成氏

「その課題を解決するのが大容量・低価格の蓄電池で、我々は国内で唯一、ストレージパリティ*を達成した製品を開発しています」と井上氏は説明する。パワーエックスの蓄電池は容量の異なるバリエーションがあり、住宅、ビル、工場、倉庫、発電所など幅広い領域の需要をカバーする。

  • * ストレージパリティ:蓄電池を導入することで得られるメリットが、蓄電池導入コストを上回る状態

パワーエックスが提供する定置用蓄電池「PowerX Mega Power」
写真提供:(株)パワーエックス

自然エネルギーを「使う」では、EV充電ステーション事業を展開する。日本のEV普及率は欧米を大きく下回るが、その理由は急速充電器の数にある。欧州諸国が1万4000カ所、米国が5000カ所をそれぞれ超えるのに対し、日本はわずか20カ所にとどまる。「日本は出力3kW程度の普通充電が主流で、それでは普通車の満充電までに24時間も要します。我々が設置する150kWの超急速充電でれば、30分程度で満充電が可能です」(井上氏)

超急速充電でもパワーエックスの蓄電池が利用される。これによって、高圧電気契約や煩雑な工事が不要なことから、「Clean/Easy/Fast」な充電ステーションの設置が可能になる。2023年夏までに都内近郊に10カ所、2030年までに全国各地で7000カ所の充電ステーションを開設する予定で、成田空港をはじめ、不動産開発業者、自動車メーカーなどと提携を進めている。

パワーエックスが提供する超急速EV充電用蓄電池「PowerX Hypercharger」
写真提供:(株)パワーエックス

そして、自然エネルギーを「運ぶ」のが、電気運搬船事業だ。世界初となる、電気で動き、電気を運搬する船で、2025年に1号艇の完成を目指し、詳細な仕様の策定を開始した。

「なぜ電気運搬船だったのか。その大きな理由の1つは電力系統の補完です。例えば、北海道など洋上風力のポテンシャルの高い場所で発電しても、既存の系統では、本州の消費地に運ぶことはなかなかできません。これを船に載せて運んでしまおうというのが、この事業の発想です」と井上氏は話す。

2025年までに設計建造する計画の電気運搬船「Power Transfer Vessel Power Ark 100」
写真提供:(株)パワーエックス

電気を船で運ぶことができれば、離島へ送電することも可能になる。また、より風の強い、岸から離れた沖合で発電した電気を運ぶこともできるので、コストが高く、地震に弱い海底ケーブルの敷設も不要になるという。

新工場に3Dシミュレーションソフトを導入し、スピード感を持ってイメージ共有

これら3つの事業の“要”となる蓄電池工場は2つある。1つは、徳島県石井町の提携工場。もう1つは、岡山県玉野市に建設中の主力自社工場「Power Base(パワーベース)」で、2024年の稼働を予定している。「Power Baseは国内最大規模の電池工場で、年間約5GWhの蓄電池をオートメーションで大量生産することにより、低コストを実現します」(井上氏)