高度医療を提供する施設に不可欠な災害対策
2022年8月3日、横浜市都筑区で停電が発生し、約830軒が影響を受けた。その2年前、同区内で移転し施設を拡大した世界有数の動物病院「JASMINEどうぶつ総合医療センター」も深夜の緊急対応に追われた。幸い、入院していた動物たちに異常はなかった。災害対策として、停電時でも電力の供給を確保できるシステムを導入していたことが大きかった。
「急な停電でも、スタッフの冷静な判断で動物たちの命を守ることができましたが、災害はいつ起こるかわからないと改めて痛感させられました。日頃から防災意識を高め、発電機等の設備を整えることの重要さ。これを動物医療に携わるすべての人たちと共有していきたいと思います」と、 JASMINEどうぶつ総合医療センター センター長の上地正実氏は当時を振り返る。
同センターは、専門的な検査や治療が必要と判断したかかりつけ医の紹介を受け、専門分野に特化した診断・治療を行う二次診療施設だ。心臓病の専門医療を行いながら、腫瘍科、腎泌尿器、消化器など専門領域を広げ、高度な総合医療サービスが提供できる体制作りに取り組んできた。2022年8月には外科が新設され、今後は皮膚科の開設も予定されている。
JASMINEどうぶつ総合医療センターの手術室
上地氏は「動物の心臓外科に関しては、日本が最も先進的な治療を行っている」と話す。ほんの10年前、犬の僧帽弁閉鎖不全症は外科治療の術がなく、病態の悪化を避けられないことが多かった。同センターでは、僧帽弁閉鎖不全症を含め、心臓外科で年間約400件もの手術実績を誇り、国内はもとより、コロナ禍においても北米やヨーロッパから手術のために特別なビザを発給してもらって来日するケースがあるほどだ。
手術後、動物たちの管理を行うICUは8基、23床。密閉されたケージで、24時間、温度と湿度、そして酸素濃度を管理する。もし、災害時の停電によって電力の供給がストップしてしまったら、温度、湿度の管理ができなくなり、安全なはずのICUが、動物たちにとって危険な環境になりかねない。
JASMINEどうぶつ総合医療センターのICU。モニターに動物の生体情報が表示され、容態を一目で把握できるようになっている
「移転する前は小さな施設で、災害への備えよりも事業の安定化に注力していましたが、移転と規模拡大に合わせて、災害への備えも徹底しなければいけないと考えました。ICUの電源確保はもちろん、避難所では動物の受け入れを認めないところも多く、病院が閉まっていると薬ももらえなくなります。災害時でも診察を継続でき、動物の受け入れも可能な施設として登録できないかなど、地域の獣医師会とともに検討しています」(上地氏)
同センターでは手術室、ICU、情報管理のシステムなど、多くの設備の利用に電力が必要になる。災害時、非常時の電力確保は必須であり、発電機の導入検討へと至った。まず検討されたのは、エネルギー源をどうするかということである。自然エネルギーは供給の安定性に不安があったため、ガソリンかガスか、どちらかで悩んだという。
ガソリンは一定量の備蓄が必要で、場所の確保、管理を厳重に行う必要があり、災害時にはスタッフが燃料補給しなければいけない。また、地震などでガソリンを管理している場所が崩れるなどのトラブルがあった場合、より大きな被害となる可能性がある。そこで目を付けたのがLPガスだった。
「LPガスなら、ボンベを固定して置けますし、長期間保管しても劣化しないため、災害時の発電機の燃料として最適だと思いました。また、ボンベの管理はガス会社が行うため、災害時に病院スタッフの手がかからないところもメリットでした」(上地氏)
停電時に動物たちの命を救った発電機
蓄電池、発電機、そして燃料などを様々な角度から比較検討した結果、LPガスを燃料に使い、小型軽量のレイパワー社製「RAYPOWER 3kVA発電機」を選択。コンパクトながら、連続稼働時間が72時間以上と長く、停電時に自動起動する機能も備え、「災害に強い」と確信できたところも決め手になった。