2024年 9月10日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

ロボットとドローンを活用した“一歩先”のホテル作り

企画・編集・文責 日経BP総合研究所

来客対応と配膳をするロボットの実演動画も公開!

あらゆる業界で顕在化している人手不足問題。とくに、インバウンド復活で明るい兆しを見せるホテル業界にとっては喫緊の課題だ。回復傾向にある需要に対応するためにも、最先端技術を活用して業務効率化を図ろうとしているのが、大塚商会ホテルグループが展開する「ホテル一宮シーサイドオーツカ」である。AIを搭載したロボットとドローンを活用した“一歩先”のホテル作りへの取り組みを紹介しよう。

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

総合リゾートホテルが模索する最先端技術の活用

太平洋に面し、夏場はサーファーや海水浴客でにぎわう千葉県・房総半島の東に延びる九十九里浜。その海岸沿いに立つのが、スポーツ・温浴・研修施設などを完備した総合リゾートホテル「ホテル一宮シーサイドオーツカ」である。

ホテル一宮シーサイドオーツカ

「客室からは日の出が望めますし、満月の夜は月光が海に反射してとても神秘的です。光害がないので星空も大変美しく、夏や冬の週末には、屋上で星空観測を楽しむことができます」と、ホテル一宮シーサイドオーツカの宿泊予約課課長 皆川薫氏は語る。

現在、同ホテルでは、“一歩先”のサービスを目指して、AIを搭載したロボットとドローンの活用に向けて取り組みが進められている。その狙いを、皆川氏はこう説明する。

「このまま少子化が進めば、人手不足はますます深刻化するでしょう。それに対応するためにも、最先端技術を扱う大塚商会のホテルグループが運営するホテルの在り方として、『今後はAIやロボットを活用して業務効率化を進めつつ、人と人のふれあいや温かみを失わないサービスを提供する』ことが重要だと考えています。また、この辺りはサーフィンのメッカで、夏場は海難事故も増えますので、ドローンによる救助活動の重要性が高まっています。その意味でも、ドローンの講習会場や国家/民間資格の試験会場として、当ホテルをご活用いただけるのではないか。そんな思いで取り組んでいるところです」

ホテルで行われたAI搭載ロボットの実証実験

今年6月、AIを搭載したサービスロボット『temi GO』の実証実験が、ホテル一宮シーサイドオーツカで行われた。

『temi GO』とは、イスラエルのロボットメーカーであるtemi社が開発した多目的配達ロボット。AI自律走行型スマートロボット『temi』の心臓部と駆動部をモジュール化した『temi Platform』をベースとし、インドアでのデリバリー用途にカスタマイズしたものだ。

『temi GO』は、11個のセンサーを使ったROBOXナビゲーション技術により、スムーズな自律走行を実現。デリバリーをするエリアのレイアウトやテーブルなどの位置をマップに設定すれば、指定された場所への自動走行が可能となる。ロボットと一緒に歩くだけで、マップ作成や目的地の登録ができるので、レイアウト変更や配置換えがあっても、簡単な操作で対応できる。目の前に人がいれば、自動的に避けたり止まったりするので、衝突の心配もない。

本動画は音声オンで再生されます。音量は、動画プレーヤー画面の下部にあるスピーカーアイコンで調整可能です。[動画再生時間: 0分25秒]

人を避けて配膳する『temi GO』

ネットワーク経由で、世界中のどこからでも『temi GO』にアクセスできるのも特徴の1つ。ディスプレイ画面上でのビデオ通話によって、従業員はロボットのカメラを通じて店内の様子を見たり、宿泊客や来店客にリモートで接客をしたりすることもできる。

今回の実証実験では、『temi GO』によるホテル受付での案内と、レストランでの自動配膳が行われた。

まず、宿泊客が来訪すると、ロボットが玄関へ移動し、音声でお出迎え。宿泊客がフロントでチェックインを済ませると、ロボットが荷物をトレイに載せるよう音声で促し、宿泊する客室の情報を伝えて、エレベーターまで先導する。

本動画は音声オンで再生されます。音量は、動画プレーヤー画面の下部にあるスピーカーアイコンで調整可能です。[動画再生時間: 0分17秒]

来訪した宿泊客を出迎える『temi GO』

一方、レストランでは従業員がディスプレイで「誕生日」をタッチすると、バースデイソングが流れ、ロボットがケーキをテーブルまで運んで、祝意を述べる。その後、「アメリカにいる父親」がスマホもしくはPCから送信してきたビデオ映像がディスプレイに映し出され、ともに誕生日の祝杯をあげるという趣向だ。

本動画は音声オンで再生されます。音量は、動画プレーヤー画面の下部にあるスピーカーアイコンで調整可能です。[動画再生時間: 1分11秒]

誕生日祝いなど温かみのあるサービス提供も可能

この日の実証実験では、あらかじめ登録された目的地をディスプレイで選択し、ロボットに料理を配膳させるという一連の作業の検証が行われた。

ロボットホテルのプロデューサーが仕掛ける次の一手

『temi』の国内総代理店であるhapi-robo(ハピロボ)stを設立したのは、世界初のロボットホテルとしてギネス世界記録認定を受けた「変なホテル」のプロデューサーとして知られる富田直美氏である。『temi GO』の今後の展望について、富田氏は次のように語る。

「いずれ『temi GO』には、ChatGPTを導入する予定です。そうなれば、『temi GO』と来店客とのやりとりを通じて、様々なことができるようになります。例えば、来店客が『今日のメニューでお薦めは』と質問すれば、『洋食と和食のどちらがいいですか』と問い返し、相手の好みに合わせて最適なメニューを提案してくれる。『じゃあ、それをお願い』と言えば、オーダーを取り、料理を運んできてくれる。『トイレはどこですか』と聞けば、来店客の後ろについて自律走行しながら、『トイレはそこの角を左です』と案内してくれるわけです」

株式会社hapi-robo st 代表取締役社長の富田直美氏

ChatGPTを搭載する最大のメリットは、最先端テクノロジーの集積体である『temi GO』を“言葉”で操作できることだ。富田氏は、「キーボードを使える人は限られるが、言葉で操作できれば、子どもからお年寄りまで、誰もがロボットを使いこなせるようになる。そんな未来は、もうそこまで来ているのです」と強調する。

配膳ロボット導入による、コスト削減への期待も大きい。『temi GO』の利用料金は、1日当たり2,500円程度。すべてを人手でまかなうより、適材適所でロボットを活用すれば、大きなコスト削減が見込める。

「当ホテルの理念は“お客様ファースト”ですので、人と人との温もりある接客も大切にしながら、ロボットを活用していければと考えています。例えば、ロボットに案内や配膳をしてもらえるとなれば、小さなお子さんは大変喜ばれると考えています。今後はファミリー向けに、ロボットを使った割安の宿泊・飲食プランなども検討していければ、と思っています」と皆川氏。

ロボットを使って人手不足を解消するだけでなく、エンタテイメント性の高いサービスとして打ち出すことで、新たな需要の喚起につなげたい、と期待を語る。

既存設備を活かしてドローン研修に

ホテル一宮シーサイドオーツカには研修施設があり、企業研修や講習会が行われている。また、敷地内にはジムやプール、屋内外のテニスコートやフットサルコートなどのスポーツ施設を完備。サウナや温泉もあり、リラクゼーションを目的に訪れる人々も多い。

ホテル一宮シーサイドオーツカの敷地内にある研修・会議専用棟「アルファプラザ」

アウトドアテニスコート(5面)、フットサル兼用のインドアテニスコート(3面)に天然温泉やプール、トレーニングジムを備える

こうした設備を活かして、同ホテルでは研修付きの宿泊プランに力を入れている。なかでも、今後の目玉の1つとして準備を進めているのが、ドローン研修だ。

近年、撮影や測量にドローンを活用する動きが広がっているが、2022年12月にドローンの国家資格制度がスタートしたことを受け、ドローンスクールのニーズも急速に高まりつつある。こうした中、同ホテルでは、従業員が講師となってドローン操縦研修を行う体制の構築に向けて、着々と準備を進めている。

ホテルの敷地内でドローンを飛ばす講師

「ドローンは民間資格なら2日間、国家資格なら難易度別に2~10日間の受講で、必要な技能の習得が可能です。ドローンの活用を通じて、大塚商会さんと一緒に新しい取り組みを始められればと考えています」。そう語るのは、同ホテルのドローン事業をサポートする、日本コンピュータネット・渉外課の沖裕介氏。皆川氏も、ドローンの活用にこう期待を寄せる。

「今後は当ホテルを、ドローンの講習会や国家資格取得のための研修会場として活用していきたい。それだけでなく、ドローンスクール付き宿泊プランや、親子でドローンが体験できる宿泊プランなどの提供も検討していきます」

同ホテルでは、今後も最先端技術を活用したホテル作りを進めることで、業務効率化とエンタテインメント体験の充実に力を入れていく計画だ。AIやドローンを活用することで、“一歩先”のホテル作りを進めていきたい、と皆川氏は最後に思いを語った。

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

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