2025年 8月 5日公開

一歩先への道しるべ ビズボヤージュ

密かに進化するAIチップ

執筆:伊藤 元昭(エンライト) 企画・編集・文責:日経BP総合研究所

IT/半導体業界は半世紀に1度の大変革か?

生成AI(人工知能)の活用の広がりの陰で進行しているのが、新しいAIチップの開発だ。AIの処理に特化することで、現行のGPU(画像処理半導体)の汎用性に起因する電力消費の増大を解決する可能性を秘める。大手IT企業からスタートアップまでがこの領域に参入し、本命となるべく開発を進める。今後新たに登場するAIチップは、ITや半導体業界に「50年に1度の大変革」をもたらすかもしれない。

* 本記事は「一歩先への道しるべ(https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/)」の記事を再掲載しています。所属と肩書は取材当時のものであり、現在とは異なる場合がございます。

機械学習からディープラーニング、そして生成AI(人工知能)へ――。AIが高度に進化したことで、その応用領域はますます拡大し、ユーザーも増加し続けている。パソコンやスマートフォン(スマホ)が生活やビジネスに欠かせない必需品となったように、高度なAIを活用した電子情報機器やITサービスもまた、日常使いする当たり前のツールになりつつある。さらに、生成AIを実現する基礎技術の1つである「基盤モデル(注1)」は、多種多様なデータを総合的に解析してより汎用性の高い知的作業に応用できることから、ビジネスや産業などの領域で目覚ましいイノベーションを生み出しつつある。既に、新材料や創薬の開発、複雑なロボット制御など様々な用途への応用が進められ、従来の情報処理技術では実現できなかった成果を上げ始めた。

  • (注1)基盤モデル(Foundation Model)とは、大量かつ多様なラベルなしデータを対象とし、自己教師あり学習を実施した大規模かつ汎用的なAIモデルである。基盤モデルの作成には、従来のディープラーニングの学習よりも大量・多様なデータが必要になるが、一度学習させれば、比較的少ない学習で特定用途にカスタマイズできるため、基盤モデルと呼ばれている。生成AIで使われている大規模言語モデル(LLM)の基礎技術でもある。また、テキスト、音声、画像、動画、センサー情報など多様な(マルチモーダルな)データを統合処理できる高度なAIシステムを実現可能である。

こうしたAIの高度化とその活用領域の拡大を支えているのが、AI関連処理を高速、高効率、低コストで実行するための半導体チップ、いわゆる「AIチップ」の進化である(図1)。パソコンやスマホが、CPUやSoC(System on Chip)、メモリーの高性能化によって機能と利便性を高めてきたように、AIの活用においてもAIチップの高性能化が欠かせない。現在、AIチップとして最も多く利用されているのがGPU(画像処理半導体)である。米NVIDIAや米AMDなどの大手GPUメーカーは、AIの高度化とその活用領域が拡大していく波に乗って業績が急拡大している。

図1 AI活用の広がりのカギはAIチップの進化
(出所:Adobe Stock)

ただし、AIチップの主役として、これからもGPUが主役であり続けるのかと言えば、そうとは言えないかもしれない。市販されているGPUは、必ずしもAI関連の処理に最適な内部構造ではないからだ。今、多くの半導体メーカーやIT企業、大学などの研究機関が、将来のAIチップの主役となることを目指し新型AIチップの研究開発を密かに進めている。