この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。
スタートしサクセスを重ね、目指すところはどこか
――実際にスモールスタートでDXを始める際、何がポイントになるのでしょうか。
森戸 私は、小さくてもよいので成功する見込みがある取り組みに着手するべきだと考えています。小さく始める(スモールスタート)のと同時に、小さい成功(スモールサクセス)を目指すのです。
スモールサクセスにこだわるのには明確な理由があります。仮にDXをスモールスタートし、現場の作業時間が減ったとします。このとき、結果的には現場が喜ぶだけで、具体的な成果にはつながらない場合があるためです。少しくらい作業時間が減ったところで、現実的には導入したツールの価格が人件費よりも高いということはありえます。経営者は費用対効果で判断をしがちです。つまりスモールスタート止まりでは、成果を上げる前に取り組みが継続できなくなってしまう可能性があるのです。
ではどうすればよいのか。例えば以前、自治体にコロナウイルスワクチンの接種予約ができる簡易的なシステムの導入支援をしたことがあります。システム導入後、電話の混雑は劇的に改善しました。結果的に依頼主の自治体に限らず、住民からも多数のお喜びの声をいただいきました。それからはデジタル導入に懐疑的だった現場も住民も、デジタルアレルギーという謎の状態から脱することができました。
これがスモールサクセスです。現場が「これは便利だ」と思うだけでなく、関係者全員が共有できる成功であることに意味があります。みんなが成功を実感できれば、おのずと次の成功を求めてDXはどんどん回り出すのです。
――スモールスタート・スモールサクセスのDXを進めていくにあたり注意点はありますか。
森戸 自社が経営的に何を成し遂げたくて(Why)、そのためにデジタルを活用して何を(What)どのように(How)するのか、ということを明確にしておく必要はあるでしょう。
ワクチン接種の予約システムの例では、業務の効率化に成功しました。多くの現場は忙しく、目先の業務を無事にこなすだけで精いっぱいということも多々あります。特に繁忙期や緊急事態に遭遇した際にデジタルツール等を使い、そんな現場の業務を効率化することは大切です。
ただし、業務効率化は目的を達成するための手段に過ぎません。中小企業が目指す目的とは、大まかに言えば新たな事業の創造です。その目的を達成するにはどうすればよいのかを考える時間を確保するために、業務の効率化をしているのです。
――手段と目的の違いを社内全体に理解してもらうには、経営者のリーダーシップが重要になりそうです。
森戸 そのとおりですが、まずは経営者の意識改革も必要ですね。DXに取り組む際に、経営者が社内の情報システム部門に指示を出しているケースはいまだに見受けられます。DXはITの話ではなく経営企画の話です。人に指示を出す前に、社長がやり始めなければ何も始まりません。
そのうえで、経営者が手段や目的について社員に丁寧に説明することは大切です。説明がないと、例えば経理や総務の人たちは、業務効率化が進めば進むほど、自分たちが必要なくなるのではないかと不安になってしまうかもしれません。それでは本来の目的を果たすどころか、その前段階の業務効率化すらままならないでしょう。
経営者が思い込みを捨て、変わらなければならない
――そもそもですが、経営者が自社に合った具体的な目的を設定すること自体が難しいのではないでしょうか。