この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
チームは常に動き続けるダイナミックな存在
――チームに関する研究をまとめた『チームワーキング』(日本能率協会マネジメントセンター)を執筆した経緯について教えてください。
中原 私は研究をする際に、必ずその成果を誰に届けるのかを意識しています。『チームワーキング』の成果を届けたかった相手は、現場のマネージャーです。彼らの多くが自分のチームを動かしたり、チームメンバーを育成したりするのに苦労しています。そこであらためて、チームを動かす方法やチームで成果を出す方法を、彼らにも分かる言葉で、かつ日本に根差したデータを用いて実践可能な形でお届けしたいと思ったのがきっかけです。
立教大学経営学部には、BLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)という、企業が直面する問題にチームで取り組み、企業へプレゼンテーションを行うカリキュラムがあります。400人ぐらいの学生が、5人ずつ80チームに分かれて活動しており、チームのデータもたくさん取得できます。そこから企業のマネージャーに刺さるような考察を導き出し、行動変容を促すことができればと考えました。
――「チームワーキング(Team Working)」は、中原先生が考案した言葉ですか。
中原 そうです。私と共著者の田中聡さんでつくりました。「チームワーク(Teamwork)」ではなく、なぜチームワーキング(Team Working)にしたのかというと、チームは“生き物”であり、いつも「動いて(Working)」いるからです。
例えば、今、学生たちにチーム活動について教えるときに、「最初の目標設定が大事」だと伝えたとします。ところが、チームの目標を設定し、ルールも決めて、チーム活動を進めていっても、目標からどんどんずれていくことがたびたびありました。目標は一度決めたらあとは放置状態で、多くの学生が「変えちゃ駄目なもの」と考えていたのです。
チームは「常に動き続けるダイナミックな存在」として捉える必要があります。環境変化に応じて目標を見直したり、再設定したりすることも十分あり得ます。そのため、チームのメンバーは常に目標を「握り続ける」ことが大事になる――。そう仮説を立てました。
――今なぜ、日本企業のチームをアップデートしなければならないのでしょうか。
中原 最大の理由は、私たちが仕事をしている環境が、日々変化していることにあります。現場のマネージャーたちは、もはや前例を踏襲していたのでは仕事ができないと感じています。
原材料費の高騰や米中貿易摩擦、サプライチェーンの分断など、明らかに去年とは異なる環境が訪れている中で、VUCAの時代と言われるように、ますます先行きが読めない状況です。
関連して、多くのマネージャーが自分のリーダーシップに対して自信を失っているようにも見受けられます。忙しく仕事はしているけれど、先読みをして、チームメンバーを動かすことができないでいます。
――特に中小企業においては人材不足が深刻で、管理職の育成が困難な状況にあるとも指摘されていますが、チームをアップデートすることは、人材不足の問題を解決することにもつながりますか。
中原 中小企業では、管理職の育成はほとんど行われていないのが現状ではないでしょうか。ただ、中小企業が興味深いと思うのは、ほんの少しのことで刺激が加わり、やる気のある人材が3人ぐらい出てくれば、業績に対して大きなインパクトを与えられることです。
管理職に限らず、全ての従業員へ投資を行い、一人一人の才能を伸ばしていくことが中小企業にとっては重要ですし、ひいてはそれが人材不足の問題解決にもつながると思います。
チームワーキングに必要な三つの視点とは
――日本企業のチームが抱えている課題には、どのようなものがありますか。