2024年11月 5日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

独裁型リーダー時代の終焉。人的資本経営の本質とは(前編)

企画・編集:JBpress

「いいからやれ」ではイノベーションは起こらない――人的資本経営の観点から考える、DX時代の人材活用

「『いいからやれ』という上意下達の体質が染みついた組織からは、イノベーションは生まれない。日本企業が人材活用の考え方を変えない限り、いつまでたってもイノベーションを起こすことはできない」。こう話すのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の組織のあり方や働き方の研究で知られる明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科で教授を務める野田稔氏だ。イノベーションを生み出せる企業は、従業員とどのような関係を築いているのか。人的資本経営の観点から、野田氏にその答えを伺った。

この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。

人材は「管理する」時代から「活躍してもらう」時代になった

――野田先生は「これからの日本企業は『人を管理する』という考え方から、『人に最大限、活躍してもらう』という考え方にシフトすべき」とお話しされています。これは、どのような社会の変化が影響しているのでしょうか。

野田 大きく二つの変化が関係しています。一つは若者を中心に「働くこと」に対する考え方が変わってきたことです。

「働くこと」について、かつては多くの人が「学生として学び、社会人として働き、定年で引退する」という「スリーステージモデル」で考えていました。この考え方が崩れつつあります。

昨今では、技術やビジネスモデルの急速な変化に伴い、一度社会に出てからリスキリングをしたり、転職したりするのが一般的になっています。特に、「人生100年時代」などと言われるようになり、60歳を過ぎても働くのが当たり前になってから、この傾向はさらに強まりました。

生成AIなどの新技術が台頭し、キャリアの賞味期限が昔に比べて短くなっている今、働き方も「スリーステージモデル」から、一人一人が異なるキャリア設計で働く「マルチ・ステージ」への移行が進んでいます。

こうした働き方の変化に伴って、「会社に自分のキャリアを決められてしまって良いのか」と考える人が増えているのです。

――二つの変化のもう一つは何でしょうか。

野田 企業を取り巻く環境が大きく変わり、従来のビジネスモデルが通用しなくなっていることです。

特に日本においては、ビジネスモデルの転換がうまくいっていない企業が少なくありません。多くの企業で、過去のビジネスモデルが限界に近づいており、国際的な競争力の低下も目立っています。

DXが叫ばれる中、日本企業も新しいビジネスを模索し始めていますが、過去の成功体験に依存し、新しい挑戦を避けてきた結果、社内に変革を推進できる人材が不足している企業が多いのが現状です。

今後、新たなビジネスを生み出すためには、「指示を待つ社員」よりも、「自ら問題を見つけ、解決する意欲を持つ社員」を育てることが重要です。そのためには、企業側が社員との関係を見直す必要があります。

「働くこと」に対する考え方や企業を取り巻く環境が変化したことで、企業経営における人材に対する考え方は根本的に変わったという理解が必要。
出典:野田稔氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成

なぜ、DX時代に人的資本経営が注目されるのか

――社会が変化する中で、人的資本経営が注目されています。人材活用を見直す上で、なぜ、人的資本経営が重視されているのでしょうか。