この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 3月18日公開予定:「脱・勘と経験」に必須のデータサイエンス(後編)
経営者の意思決定を支えるデータサイエンス
――企業のデータ活用が進む中、データサイエンスという言葉を耳にする機会が増えています。「理系の難しそうな学問」というイメージがありますが、実際はどのようなものなのでしょうか。
渡辺 データサイエンスと聞くと、統計処理やデータ分析をイメージする人が多いかもしれません。確かにそれらが含まれることは事実なのですが、単に統計学の知識や手法を学ぶだけではなく、データを活用して価値を生み出し、具体的なビジネスの意思決定につなげるための実践的なプロセスをカバーするのがデータサイエンスです。
データサイエンスの本質は、「データ分析の結果を基に、価値を生み出すためのストーリーを描くこと」にあります。そのためには、単にデータを集計・分析するだけでなく、その背景やプロセスを読み解くことが求められます。
また、分析で得られた知見を、現場での意思決定や具体的なアクションにつなげることも重要です。データを活用した改善策を実行できるかどうかが、最終的な成果を大きく左右するからです。

価値を生み出すストーリーを描くには、データを集計・分析し、問題の背景を探り、解決に向けたプロセスを考える必要がある。
出典:渡辺美智子氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成
データサイエンスの活用をイメージする上では、スポーツの世界を例に挙げると分かりやすいかもしれません。例えば、米メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手をはじめとするトップアスリートたちが、どのようにデータを活用しているかは注目に値します。
大谷選手は、トレーニング中にGPS機能を搭載したウェアラブルデバイスや、センサー付きのデバイスをバットに装着して、打球の角度や速度、スイング時のバットスピード、さらには心拍数といった多様なデータを収集しています。
そして、これらの数値データを自身の感覚と突き合わせることで、パフォーマンスの客観的な分析と改善を繰り返しています。自らのスイングや動作を数値で管理し、その精度を高めるためにトレーニング方法を調整し続けることで、ホームランを生む理想的なスイング角度や最適なバットスピードを再現性のある形で身につけることが可能になります。
まさに「データに基づいて自身のパフォーマンスを分析し、弱点を補強して成果を最大化する」というデータサイエンスの本質を体現していると言えるでしょう。
企業経営においても同じことが言えます。ビジネスの意思決定を直感や経験だけに頼るのではなく、データに基づいて現状を把握し、課題を特定して改善策を講じることは、成功を導く上で欠かせないアプローチなのです。
不確実性の高い時代のビジネス戦略をサポート
――なぜ今、データサイエンスがこれほどまでに注目されているのでしょうか。