この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 9月16日公開予定:改めて見直すべき、シニア人材との向き合い方(後編)
労働人口の減少でシニアの労働力が不可欠に
――人手不足が深刻化する中、企業にとってシニア人材を活用することの重要性はどのように変化しているのでしょうか。
大木 かつてのシニア人材の活用は、本人の希望や能力にかかわらず60歳定年後の雇用延長時に報酬(給与や賞与・一時金など)を一律に引き下げるなど、企業側が十分な戦力としてシニア人材に期待していない傾向が見られました。しかし、少子高齢化の進行とともに労働人口が急激に減少している現在、企業は年齢に関係なく人材を確保する必要に迫られています。
特にコロナ禍以降は、若手人材の採用、育成や定着が一層難しくなり、採用・育成・定着にかけるコストに見合う成果を上げるのが困難な状況が続いています。こうした中でシニア人材を再評価する見方も出てきました。彼らは、長年の実務経験や豊富な知識、真面目で勤勉な働きぶり、さらに高い定着率といった強みを持つ存在だと理解されるようになったのです。
法制度の面でも、2020年に改正された高年齢者雇用安定法により、2025年4月からは65歳までの雇用確保が全ての企業に義務づけられています。
これにより、企業は「65歳までの定年延長」「65歳までの継続雇用制度(雇用延長・再雇用制度)の導入」「定年制の廃止」のいずれかを選び、対応することが求められています。こうした法的枠組みの変化も相まって、企業はシニア人材をどう位置づけ、いかに戦力として生かしていくかが問われる時代に入ったと言えるでしょう。
――そうした大きな過渡期にあって、企業の現場では何が起こっているのでしょうか。
大木 最も深刻なのは、60歳を境として処遇制度が分断されている点です。法的な雇用義務を受けて企業は60代前半の社員を継続雇用するようになりましたが、その結果として、社内に二重の制度が併存する状態になっています。