この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 10月21日公開予定:成果につながる“科学的”な教え方(後編)
今、企業に科学的な教え方が必要とされる理由
――多くの企業に指導されてきた中で、昨今のビジネスにおける、教えることに関する悩みの実態をどう見ていますか。
飯山 ビジネスで人にものを教える上での大きな悩みの一つとして、「教えるのが怖い」という意見をよく耳にするようになりました。背景には、労働人口の減少による人手不足があります。人材の採用がままならない中で、「辞められては困る」という意識が働いているのです。
多くの人は、自分が培ってきた経験に基づく指導方法が、相手に受け入れられないことに戸惑いを感じているようです。言い方一つでハラスメントになりかねない状況もあり、腫れものに触るような指導になってしまっています。
――これまでの指導方法が通用しなくなったのは、なぜなのでしょうか。
飯山 社会環境のさまざまな変化に伴う、価値観の急激な変化があると考えられます。特に、SNSや生成AIの普及により、見聞きする情報量が増え、コミュニケーションの在り方が変わったことが大きく影響しているでしょう。
かつての仕事の現場では、上司から指示を受けたら、言われた通りにやるしかありませんでした。でも今は、必要な情報をいくらでも入手できます。例えば生成AIに「上司はこう言っているが、正しいか」と聞けば、より適切な答えが得られてしまうのです。
このように自分で情報を手にできる人たちは、教えられたこと、指示されたことに根拠や裏付けがなければ納得せず、動きません。そこで、神経科学(日本では一般的に脳科学と呼ばれる)が一つの解決法になります。脳の働きに関する研究成果が、教える相手を納得させる根拠になり得るというわけです。
脳の性質を利用したモチベーションの引き出し方
――脳科学に基づいて教える際、まず押さえるべきポイントは何ですか。
飯山 何かを教えるとき、教える側には当然、目指すところがあります。その一方で、教えられる側にも「こうなったらいいな」という願望があるはずです。最初は、教える側の目指すところを伝えるのではなく、教えられる側が自分で考えて願望を明確にすることが重要です。
人は自分の脳内でイメージできないことは実現できません。ゴールにある「望む結果」を具体的に描くことが、行動の原動力、持続力につながります。目標や成果と言い換えてもいいのですが、これらは「与えられたもの」という印象があるため、私はあえて望む結果と表現しています。
――従来は一般的に、教える側が目標を示し、教えられる側はその達成を目指していましたが、これを変える必要があるということですね。
飯山 そうです。少し視点を変えると、例えば経営者が示す目標は、経営者が望む結果ですよね。今は、経営者が望む結果をみんなで目指すトップダウンのやり方で成果が出せる時代ではありません。一人一人が「この会社で自分がどうなりたいか」「どんな仕事をすればいいか」と考える、ボトムアップのアプローチが必要になっているのです。
――望む結果を描くだけで、実現に向けて行動できるものなのでしょうか。