この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 12月16日公開予定:成長のための行動エンジン「企業家的志向性」(後編)
企業家的志向性(EO)の高い企業が、高成長を遂げる
――中小企業の存続や成長に強く影響すると言われる「企業家的志向性(EO)」とは、どのような概念ですか。
江島 もともとEOは米国において1980年代に脚光を浴びた企業家(Entrepreneur)・企業家活動(Entrepreneurship)の研究から出てきた概念で、特に小さな組織において、企業家の戦略形成プロセスを組織に広げて、トップと一体化した戦略的志向性として体系化されたものです。
中小企業や大企業の一部門(戦略ユニット)が、新たな市場や商品・サービス、技術の開発を行う際の実践的な意思決定の型や行動様式と言ってもいいでしょう。1990年代以降、米国シリコンバレーの企業が急激に成長したときに、その戦略姿勢が注目され、そこから研究が進み、EOが世界的に知られるようになってきました。
EOのキーワードは、「革新性(Innovativeness)」「先進性(Proactiveness)」「リスクテイキング(Risk-taking)」の三つです。既存より新規、守りより攻め、分析より行動、緻密な正確性よりスピード感、こういったものを重視し、求めていくこと。世界中の複数の実証研究の結果から、こうした要素と企業の業績に相関性があることが分かっています。現場で起きた事象をもとに理論化したものであるため、現場感覚に合う点もEOの特徴の一つです。
――「企業家的」と言うと新規事業の立ち上げをイメージしますが、EOは組織がある程度の大きさになってからの存続や成長に影響するものと解釈してよいですか。
江島 はい。例えば創業・起業のフェーズでよく使われる概念に、エフェクチュエーションがあります。これは、不確実性が高く予測が困難な環境下で、柔軟かつ主体的に事業を進めるための意思決定のアプローチであり、事業の構想初期段階から検討するものです。
エフェクチュエーションは、目的から手段を考えるのではなく、手持ち手段から目的を紡ぐもので、これも成長志向のアプローチである点はEOに似ていますが、適用される時期が違います。EOはエフェクチュエーションより後、創業から数年後の事業ドメインが一定程度落ち着いたところで、さらに成長していくときの意思決定の型です。EOはあくまで市場競争を意識した戦略思考/行為であって、マーケティング戦略の考え方とも親和性があると言えるでしょう。
危機的状況からの回復にも、EOが好影響を及ぼす
――先生は、東日本大震災前後の調査を基に、危機的状況からの回復とEOに関する実証研究をされていますね。