2026年 1月20日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

人の非合理的な行動を解明する行動経済学(後編)

企画・編集:JBpress

顧客理解を軸に意思決定できる会社になるには

マーケティングやマネジメント、自己実現といった、企業の成長に欠かせない領域で役に立つ行動経済学。自社に取り入れるためにはどのような方法で、どこに注意して取り組めば良いのか。行動経済学研究の第一人者として知られる中央大学戦略経営研究科教授の阿部誠氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

ビジネスに効く「ナッジ」と「プロスペクト理論」

――行動経済学を学ぼうとすると、さまざまな理論や効果が出てきます。自社に行動経済学を取り入れる初期段階で、最低限押さえておくべきことはありますか。

阿部 ナッジとプロスペクト理論を知っておくと良いと思います。

ナッジは、人が自発的に望ましい行動を選択するよう、そっと後押しする仕組みです。ナッジの仕組みをうまくつくることで、相手に強制することなく、こちらにとって望ましい行動を取ってもらえるようになります。

仮にナッジをマネジメントに生かすとした場合、四つの特徴が考えられます。一つ目は、強制や強要をせずに、本人の意思で自由に行動できる仕組みであることです。二つ目の特徴は、行動変容した結果が本人や所属する会社のためになること。三つ目は経済的なインセンティブが最小であることです。これは「お金を払うから従ってください」ということではなく、本人の意思で自主的に行った行動が結果として自分や会社のためになるような仕組みづくりをすることです。四つ目は、その仕組み自体が簡単で、比較的安価に構築できることです。

一方、プロスペクト理論は、投資のように、選択に損得や確率が関係するような不確実な状況下で人がどのようなプロセスを経て意思決定するのかを説明する理論です。

この理論は、「人の利得や損失は何らかの基準点を基に決まる」「利得よりも損失の方が大きな価値の違いを感じる」「利得ではリスク回避に、損失ではリスク追求に傾く」という傾向があることを示しています。

具体的な例として「利得は分離、損失は統合」するのが有効とされています。もしクリスマスプレゼントとして複数のギフトを用意するなら、一つの箱に詰め込むより、それぞれのギフトを個別に箱に入れて渡す方がお得感や満足感につながりやすい(=利得は分離)。一方で、家などの高額商品を販売する際は、照明やエアコンなどをパッケージにするのが有効です。客は個別に支払うよりも、一回にまとまっている(=損失は統合)方が、苦痛が少なく感じるからです。

行動変容を設計する五つのステップ「BASIC」

――自社のビジネスに行動経済学を取り入れる際のコツはありますか。

阿部 ナッジを使って、社員の動機付けをしたり、効率的に働いてもらったりする際のプロセスを知っておくと、導入がスムーズになるかもしれません。