2026年 4月21日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

激変する国際情勢をどう読み解く?「地政学リスク」(後編)

企画・編集:JBpress

地政学・地経学リスクの衝撃に備える。必須の防御策と戦略的な視点(後編)

国際関係の変化に起因するリスクが貿易や技術、資源、金融といった経済分野にも広がる中、中小企業の経営者は何を理解し、どのように情報を集め、経営判断につなげていくべきなのか。地政学・地経学リスクへの対策のいろはを、京都先端科学大学経済経営学部・ビジネススクール教授の井川佳実氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

経営に必要な知識の「最低ライン」とは

――地政学・地経学リスクのベースにある地理的、政治的な考え方について、経営者はどの程度、理解しておく必要があるのでしょうか。

井川 経営者が過度に専門的な情報を追う必要はありません。国際情勢を読み解く基本は、中国やロシアといった非西側諸国と、日米欧を中心とする西側諸国との二極構造を押さえることです。政治体制の違いだけでなく、領土や勢力圏の守りを重視する「大陸国家」と、海を通じた自由貿易や同盟関係を重視する「海洋国家」という、行動原理の違いも知っておきたいところです。

特に重要なのは、トランプ政権以降の米国の動きでしょう。ルールを重視する「海洋国家側のリーダー」であった米国が、「自国ファースト」を掲げ、その振る舞いを一変させています。世界のルールよりも、自国の国境や直接的な利益を最優先するという、いわば大陸国家に近い行動を取り始めている点が、近年のニュースを理解する鍵となります。

大きな事件が起きたら、「なぜそれが起きたのか」を一段掘り下げて考える姿勢は重要だと思います。制裁、紛争、関税、輸出規制など、それぞれの背後にある地理条件や歴史、同盟関係、経済事情をたどることで、単なるニュースではなく、経営判断に生きる「流れ」として理解できるようになります。

情報源としては、新聞やニュースのほかに、経済産業省や経済団体の注意喚起、日本貿易振興機構(ジェトロ)が公表する制裁対象企業リストなどもあります。実務に直結する公的情報を定期的に確認するのが基本です。加えて、民間シンクタンクである地経学研究所の「地経学ブリーフィング」や、海外の主要なシンクタンクの分析にも目を通すと、国際情勢を企業の視点から立体的に捉えることができます。

――企業にとって、どんなポイントが喫緊の課題なのでしょうか。

井川 多くの企業が直面する可能性があるのがサイバーセキュリティです。狙われるのは必ずしも大企業や先端技術を持つ企業だけではありません。中小企業が踏み台にされ、そこから親会社や取引先の情報が抜き取られるケースも現実に起きています。

「自社が狙われているのではなく、自社を経由して、サプライチェーンの上位の企業が狙われている」という認識を持つことが、対策の出発点になります。