2026年 5月26日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

「深化」と「探索」は連続体?「両利きの経営」の今(後編)

企画・編集:JBpress

資源配分・評価・人材育成で対立を防ぐ「両利きの経営」の実践ポイント

経営に「深化」と「探索」という二つの要素を取り入れることで、ビジネスに安定と革新をもたらす「両利きの経営」。両者の間で対立が起こりがちなこの手法をリソースの限られた中小企業が取り入れる際にはどのような点に配慮すればよいのか。この分野の研究で知られる神戸大学大学院経営学研究科准教授の塩谷剛氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

深化と探索の対立を防ぐためにすべきこととは

――経営資源が限られている中小企業の場合、深化と探索のリソース配分にはどのような選択肢があるのでしょうか。

塩谷 深化と探索の配分は企業の状況によって異なるため、それぞれを何%にすべきかを一律に示すことはできません。ただし、経営資源が限られる中小企業では、既存事業を深める深化の比重が大きくなるのは自然な流れです。

探索を進めるには資金が必要であり、その原資を生み出すためには、既存事業から着実に売り上げと利益を確保しなければなりません。「既存事業で得た収益を新規事業に投資していく」という構造を前提にすると、結果として既存事業により多くのリソースが配分されることになります。

――深化を担う社員と探索を担う社員の間のあつれきを生まないようにするためには、どのようなマネジメントや評価をすればよいのでしょうか。

塩谷 重要なのは、経営者が間に立ち、両者が等しく重要であることをそれぞれに丁寧に伝え、調整していくことです。

短期的かつ具体的な成果で評価されやすい深化と、長期的な視点で価値創出を求められる探索の間では、「アイデアを出しているだけで楽をしているように見える」「稼いでいるから偉いのか」といった誤解が生まれがちです。こうしたあつれきの芽を摘むためにも、経営者が「これからの自社の在り方」を軸に、深化と探索の両方が不可欠であることを社内に繰り返し説き続けることが重要になります。

評価の在り方についても注意が必要です。深化は売り上げや利益などの指標で比較的測りやすい一方、探索は利益が出るまでに時間がかかります。そのため、従来の指標をそのまま当てはめると、探索を適切に評価できなくなってしまいます。

大企業では、探索の評価手法として「ステージゲートモデル」を導入しているケースがあります。これは、アイデア創出から試作、製造、市場投入へと進むそれぞれのプロセスに「ゲート」を設け、その都度、経営者などが評価しながら絞り込んでいく方法です。探索のプロセスを段階的に評価する枠組みとして、参考になるはずです。

各プロセス間にゲートを設け、次のプロセスに移行するか否かを、その都度、経営者が判断して段階的に進めることで評価がしやすくなる。
出典:取材を基にJapan Innovation Review編集部で作成