この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。
交渉を成功させるための勘所
――「交渉の三つの原則」を実践するためのポイントはありますか。
隅田 交渉の現場でありがちな失敗の一つが、相手の問いかけに、そのまま反応してしまうことです。例えば、「10%、お値引きをお願いできますか」「納期を2週間早めてもらえますか」と言われると、多くの人は反射的に「イエスかノーで答えなければならない」と感じてしまいます。
この時点で認知バイアスに陥っており、これを「二分法の罠」と言います。人間には、「はい」「いいえ」で答えられるような質問(クローズド・クエスチョン)に対して、「二択で答えなければならない」という思い込みがあります。
さらに、早く合意するために、こちらから譲歩しようとする心理が働くこともあります。例えば、10%値引きの要望に対して、「5%でどうですか」と切り返すようなケースです。冷静に考えると、10%値引きが5%値引きになったとしても、こちらが損をしている事実に変わりはありません。ところが、交渉中は、このことに気付かず、「間を取ってうまくいった」と思ってしまうのです。
そうした失敗をしないよう、相手から突然、「……してくれませんか?」と問われたら、二分法の罠を疑ってください。そのうえで、「初めて伺ったお話なので、もう少し詳しく教えてください」と切り返し、相手に説明責任を課してください。

「値引きする・しない」の二択に陥ってしまっている。ありがちなのは間を取って5%値引きするといった選択肢だが、利益を減らしているだけなので第三の選択肢とはいえない。納期や付加価値の変更など、価格とは別の選択肢を広げたい。
出典:取材を基にJBpress Innovation Review編集部で作成
次に、気をつけたいのがアンカリング(係留効果)です。これは、相手から最初に提示された数字が、特に合理的な根拠がなくても、交渉の出発点になってしまうという現象を意味します。アンカリングは非常に強力で、誰もが引っかかります。そこで二分法の罠に陥らず、「ちょっと詳しく状況を説明してください」と一呼吸置く。そして、相手の提示には「アンカリング効果があるので気をつけよう」と考える。この余裕が大事なのです。
ここで役立つのがメタ認知です。「今、自分は焦っていないか」「提示された数字に引きずられていないか」といった自分の状態を一歩引いて観察できるようになると、交渉は格段に安定します。