2026年 8月 4日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

成功法則をまねするより現実的な「失敗学」(前編)

企画・編集:JBpress

「同質化」による競争と「異質化」に伴う高リスク。ありがちな失敗とどう向き合うべきか

ビジネス書には成功の法則があふれる一方で、その法則をそのまままねしたところで、うまくいかない場合が多い。経営コンサルタントとして約20年で300件以上のプロジェクトに関わってきた早稲田大学ビジネススクール教授の菅野寛氏は、「私の計算上は、新規事業が成功する確率は10%程度」とも言う。過去の経験に基づき、同氏が注目するのは「失敗」だ。成功の法則を追いかけるよりも、むしろ成功する確率を高める「失敗学」について、菅野氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。

  • ※ 8月18日公開予定:成功法則をまねするより現実的な「失敗学」(後編)

なぜ「成功」ではなく「失敗」に注目するべきなのか

――多くの人が成功事例に注目する中で、なぜ先生は「失敗」を重視するのでしょうか。

菅野 理由はシンプルで、成功は再現が難しいのですが、失敗は防ぐことができるからです。

私はコンサルタントとして約20年、300件以上のプロジェクトに関わってきました。その中で強く感じたのは、成功している事例よりも、失敗している事例の方が圧倒的に多いということです。

成功事例は華やかで魅力的ですが、多くの場合、その企業特有の環境や時代背景、組織文化の中で生まれたものです。他の企業がまねしたところで、うまくいくことはほとんどありません。

典型的な例がトヨタ生産方式でしょう。世界中で高く評価されていますが、形だけを導入して成果を出している企業は決して多くはない。私がこれまで多くの工場を見てきた経験でも、実際には大半がうまくいっていない印象です。トヨタ生産方式は、トヨタの企業文化や人材育成、働き方が一体となって初めて機能する仕組みだからです。

興味深いのは、成功が企業ごとに異なるのに対し、失敗には驚くほど共通点があるという点です。成功はパターン化しにくいのですが、失敗には明確なパターンがあります。だからこそ、多くの企業が共通して学べるのは成功よりも失敗なのであり、失敗とそこからの学びの方が「形式知」として共有しやすいのです。

「同質化」と「異質化」のジレンマをどう乗り越えるか

――「ビジネスは本質的に失敗する運命にある」と先生はおっしゃっています。他社と同じことをする「同質化」でも失敗し、新しいことをする「異質化」でも失敗するという「失敗のジレンマ」に、経営者はどう向き合えばよいのでしょうか。

菅野 ビジネスは突き詰めれば、「他社と同じことをする(同質化)」か「他社と違うことをする(異質化)」かの二つの選択肢しかありません。どちらを選んでも、簡単には成功しないというのが現実です。