この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 8月18日公開予定:成功法則をまねするより現実的な「失敗学」(後編)
なぜ「成功」ではなく「失敗」に注目するべきなのか
――多くの人が成功事例に注目する中で、なぜ先生は「失敗」を重視するのでしょうか。
菅野 理由はシンプルで、成功は再現が難しいのですが、失敗は防ぐことができるからです。
私はコンサルタントとして約20年、300件以上のプロジェクトに関わってきました。その中で強く感じたのは、成功している事例よりも、失敗している事例の方が圧倒的に多いということです。
成功事例は華やかで魅力的ですが、多くの場合、その企業特有の環境や時代背景、組織文化の中で生まれたものです。他の企業がまねしたところで、うまくいくことはほとんどありません。
典型的な例がトヨタ生産方式でしょう。世界中で高く評価されていますが、形だけを導入して成果を出している企業は決して多くはない。私がこれまで多くの工場を見てきた経験でも、実際には大半がうまくいっていない印象です。トヨタ生産方式は、トヨタの企業文化や人材育成、働き方が一体となって初めて機能する仕組みだからです。
興味深いのは、成功が企業ごとに異なるのに対し、失敗には驚くほど共通点があるという点です。成功はパターン化しにくいのですが、失敗には明確なパターンがあります。だからこそ、多くの企業が共通して学べるのは成功よりも失敗なのであり、失敗とそこからの学びの方が「形式知」として共有しやすいのです。
「同質化」と「異質化」のジレンマをどう乗り越えるか
――「ビジネスは本質的に失敗する運命にある」と先生はおっしゃっています。他社と同じことをする「同質化」でも失敗し、新しいことをする「異質化」でも失敗するという「失敗のジレンマ」に、経営者はどう向き合えばよいのでしょうか。
菅野 ビジネスは突き詰めれば、「他社と同じことをする(同質化)」か「他社と違うことをする(異質化)」かの二つの選択肢しかありません。どちらを選んでも、簡単には成功しないというのが現実です。