2023年 5月 1日公開

読んで役立つ記事・コラム

総務流メタバースで新たな企業風土を作る

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

最近よく耳にするメタバースという言葉。ゲーム世界だけでなく、企業にとっても大きな効果をもたらす技術なのです。ここでは企業風土づくりとメタバースの関係を解説します。

1. メタバースとは?

メタバース(Metaverse)という言葉は、“超~”、“高次~”を意味する「Meta」と宇宙や全世界を意味する「Universe」が組み合わされた造語であり、インターネット上に構築された仮想空間のことを表します。コンピューターゲームでは、アバターといった分身を表すキャラクターを選んで、同じ空間にいるほかのアバターと会話したり、何かを作ったり、戦ったりするなどの共同作業を行います。動物キャラクターなどで話題となったゲームもありますので、体験した方も多いのではないでしょうか。

同じような言葉で「VR(Virtual Reality)」があります。こちらは仮想現実という意味で、現実ではない世界を疑似体験できる仕組みです。現実の世界と同じような空間を認識するために360度動画やCGなどで制作された映像を操作することで、仮想体験を可能とする技術です。多くの場合はVRゴーグルといったヘッドセットを装着して視聴します(注)。360度全方位3Dの立体映像で見渡すことを可能にしています。

  • (注)シアター型はゴーグルではなく、プロジェクション投影

このVRの中でも、多人数が同時に参加可能で、参加者が自分のアバターを操作して自由に行動し、ほかの参加者と交流するインターネット上の空間がメタバースとなります。メタバースは、アバターを通した交流を行うことが大きな要素となりますので、ゴーグルなどの周辺機器を用いなくても利用可能です。しかし、VR技術を取り入れることでさらにリアリティーのある空間演出が可能となってきます。

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2. メタバースの企業利用

これまでは、ゲームを中心にエンターテインメントの世界で利用されていた仮想空間の技術ですが、新型コロナウイルスの世界的なまん延により、テレワークをはじめ、ビジネスシーンでの利用が注目されることになりました。

世界規模でのメタバース市場の拡大

メタバースという仮想空間上での店舗開設やセミナー、コンサート、展示会などのイベント開催など、メタバースの世界市場は今後数年間で飛躍的に拡大すると予測されています。総務省が2022年に発表した情報通信白書によると、2021年に4兆2,640億円だったメタバースの市場規模が2030年には78兆8,705億円に急拡大するとされています。

参考:総務省 令和4年版情報通信白書 仮想空間市場
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236a00.html
(出典)Statista(Grand View Research)

日本の企業でメタバース市場に参入する企業はまだ少ないのですが、ネット通販など一般消費者の購入拡大などで、よりリアルで質の高い販売やサービスを提供する手段としてメタバースに参入する企業は増加すると思われます。

オンラインコミュニケーションの活性化

現在、企業が最も注目しているのがメタバースによるコミュニケーションの活性化です。コロナ化で普及が促進したテレワークでは、リアルなオフィスワークに比べてコミュニケーションが取りにくいとの課題が指摘されています。

オンライン会議では、議題に沿った対話が主となり、相手の表情しか分かりませんが、アバターを利用することでバーチャルオフィスを自由に動き回ったり、相手と気軽に会話したりすることで業務上のコミュニケーションが取りやすくなるといった効果が期待されています。

また、提案やプレゼンテーション、ディスカッションを行う場が自由に設定できることにより、いつでも、誰もが参加できる環境を用意することが可能となります。その結果、自由な発想や大胆な発想での事業展開など、デジタル時代に即したアイデアが生まれる可能性が期待できます。また、このように活発な意見交換が企業を活性化する企業風土を形成することにもつながります。

メタバースと総務の役割

メタバースと総務業務は一見すると関係が薄いように思われます。しかし、企業課題とされているDXの推進においては、デジタル時代の企業風土を構築することが総務部門の大きな役割となっています。ところが、デジタルに対応した企業風土の形成といわれても、実際にどのようにすれば良いのか分からない方が多いのではないでしょうか。

メタバースを事業展開として経営目標に掲げる企業はまだ少ないと思われます。そのため、まずはコミュニケーションを活性化するための施策・ツールとして、メタバースを利用することをお勧めします。オンライン会議は、特定のメンバーが予定されているスケジュールに従って利用することがほとんどです。メタバースでは、従業員がオンライン上の分身となるアバターを選択して、自分の興味や都合で能動的に参加できるコミュニケーションスペースを用意しましょう。

例えば、バーチャルオフィスを設置し、テーマ別の会議室や余暇活動(同好会・趣味)の部室、休憩室(雑談)など、従業員が自由に参加できる場を用意します。最初は従業員が興味を持って、安心して利用できるメタバース環境を構築しましょう。

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3. メタバースでバーチャルオフィスを設置・運営するポイント

  • 従業員利用促進のための工夫

    話題性、利便性を社内報などほかの社内メディアを通してアピールします。また、アバターを利用したコミュニケーションについては、利用方法や面白さ・可能性を伝えて従業員の興味や関心を引きつけましょう。同時に想定されるリスクとその対処方法も明確にして、安心して利用できる環境であることも周知します。

  • CI(コーポレートアイデンティティー)など、自社らしさを反映したルームの構築

    企業ロゴやコーポレートカラーを反映した自社らしさを強調し、仮想空間においても自社らしさが体感できるようにすることで、一体感の醸成や企業風土を体感するスペースとします。

  • ルールの設定、リテラシー教育

    インターネット上で起こるトラブルを想定してルールを策定。また、研修などを通して周知を徹底します。

  • きめ細かな運用管理

    メタバースマスターとして、従業員が不安にならないように利用方法の案内やサポートを行います。

  • トラブルの即時対応

    トラブルや不具合については、迅速に対応します。同時に再発防止策を早急に整え、ルールの修正を行います。トラブルを未然に防ぐだけでなく、予期せぬ事態に対応するノウハウを経験し、対応方法を共有することはメタバースに本格対応する際に大きな資産となります。

総務部門は、新社屋の建設や引っ越しなど、労務環境の整備が大きな役割となりますが、メタバースの導入も同じように、最終的にはインターネット上に新社屋を建設(事業展開)することを目的とします。仮想空間で従業員が仕事をしやすい環境を構築することが、DX時代に企業が発展・存続するための基盤となるでしょう。

メタバースの企業導入目標は現実世界との共存

メタバースへの取り組みは、企業のDX推進の大きな要素になると思われます。しかし、仮想空間だけにとどまっていては、企業がメタバースに取り組む本当のメリットは享受できません。仮想空間と現実世界の融合が必要となります。

メタバース上で生まれたアイデアによる新規事業や製品・サービスの開発、制度やシステムの改変・改修、グローバルなマーケティング展開や展示会などのイベント開催、就職採用活動、より進化したテレワークの実施など、メタバースの効果を現実世界に取り込むことで、メタバースを導入する目的が達成されるのです。

まずは総務部門が率先して、仮想空間に社員のコミュニケーションを活性化するスペースを設置してみてはいかがでしょうか。

参考

経済産業省「【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)2021年版 KPMGコンサルティング株式会社委託事業」(経済産業省のWebサイト<PDF>が開きます)

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4. メタバースが与える業界への影響(ファッション業界編)

メタバースがファッション業界やECに与える影響とは?

「メタバース」はゲームやソーシャル分野での活用事例が知られていますが、EC分野においてもバーチャル空間でコミュニケーションを取りながら、新しい顧客体験の創造を目指す「メタバースEC」などの取り組みが進んでいます。メタバースに企業が参入することで、コストを削減できるメリットが考えられます。これまでリアルにオフィスや店舗を構えていた場合、賃貸契約を解約してVRオフィスやバーチャルショップに移転させることも検討できます。例えば、バーチャルにオフィスを構えた場合、完全リモート勤務が実現し、固定費としてかかっていた賃料や光熱費などは全て不要になり、その分の予算を事業運営に活用できるようになります。

メタバースがファッション業界やECに与える影響とは?

  • * 本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。

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