1. 役員就任のステップ
役員は、経営責任者として株主から委任を受けて企業の経営の指揮を執ります。これまで役員でなかった人が新たに役員になることを役員の就任といいます。企業の顔として活躍することとなりますので、社内外から大きな注目を集めることになります。そのため、就任にかかわる業務は、遅滞や間違いが起きないようにスムーズに行わなければなりません。
役員の定義
会社法では、役員は取締役、会計参与、監査役としています(会社法第329条)。役員は株主総会で株主から経営を委任され、健全な経営と業績拡大などへの責任と義務を負います。執行役員を配置する企業も多くなっていますが、執行役員は会社法で定める取締役と違い、法的な定義はありません。一般的には、取締役の指示により取締役と同等の権限を持って実務を推進する役割とされています。
同様に、CEO(Chief Executive Officer)やCOO(Chief Operations Officer)も会社法による取締役ではないため、役割や権限などは企業の任意で定めることとなります。
取締役就任のステップ
ここでは、会社法で定められている取締役、会計参与、監査役就任の流れを説明します。
- 就任対象者の選定
取締役の人数は会社定款に定められているため、通常は就任者の人数=退任者の人数となります。単なる人員交代ではなく、経営の基幹に大きく影響する人事となるので、就任(交代)の理由を明確にする必要があります。特に新任の場合は「○○事業を推進する役割として……」などの任命理由を明らかにすることが望まれます。
また、取締役は経営者の一員となるため、従業員という立場では就任できません。管理職など、従業員から取締役に就任する場合は、退職してから就任することになりますので退職金の支払いや社会保険の手続きが必要になります。役員報酬などの待遇も含めて事前に本人へ周知・承諾を得る必要があります。
- 組織変更と人事異動の検討
取締役の交代は経営計画の達成を念頭に行われることが多いため、執行役や取締役の担当業務に関連する管理職などの異動を伴う場合があります。特に代表取締役の交代の場合は、組織全体への効果と影響を見定めて慎重に判断する必要があります。
- 登記手続きに必要な書類の準備
役員の交代の手続きに必要な書類は以下の通りです。
- 登記申請書
- 前任役員の辞任届
- 就任役員の就任承諾書
- 株主リスト(株主の氏名・名称、住所および議決権数などを証明する書面)
- 取締役会議事録
また、就任者の印鑑証明と本人確認書類として住民票、マイナンバーカード、住基カード、免許証などの写しを添付する必要があります。
- 取締役会の開催と役員就任の承認
役員を選任するために、取締役会議(臨時も含む)を開催し選任決議を行います。この決議を議事録に記載し、役員交代の登記申請を行います。
- 社会保険の手続き
管理職などの従業員が昇進して役員に就任する場合は、前述した通り退職扱いとなりますので、雇用保険と労災保険(特別加入を除く)は適用外となります。労災保険、雇用保険は資格喪失手続きを行うこととなります。健康保険、厚生年金保険は継続となるため手続きは不要です。社外から新たに取締役に就任する場合は、資格取得届などを管轄する年金事務所に提出して加入の手続きを行ってください。
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2. 役員就任と社内外への周知
役員の交代は、企業の経営に大きな影響をもたらすため、社内外への周知は迅速に行わなければなりません。
社内の告知
通知文書をメールやメール添付によって発信するのが第一となりますが、従業員に対しては、信頼感を醸成するために意思表示やメッセージを伝えることが必要になります。特に代表取締役が交代した場合は、社内報などの紹介だけでなく、ビデオメッセージの放映など、経営意思や人柄がダイレクトに伝わる形で周知することが期待感や信頼感を高めるポイントとなります。
社内SNSがある場合は、その活用も視野に入れて情報発信を行いましょう。新任直後は、できるだけ従業員と直接対面、コミュニケーションできる機会を増やすことが、従業員が安心して働くための環境作りにつながります。
社外への告知
取引先、関係会社、金融機関、所轄の官公庁・自治体、株主に対しては、あいさつ状を送付します。送付先のリスト作成、文書作成、印刷・発送を総務部門、広報部門が行います。広報用の顔写真の撮影やプロフィール・実績の紹介文も事前に用意します。
代表取締役が新任の場合は、マスコミへの発表・周知を行う場合もあります。また、企業トップの交代発表は社会からの関心も高く、今後の事業展開に大きく影響します。必要に応じて就任の記者会見の場を設けて、新代表と経営方針を社内外に印象付ける機会として検討してはいかがでしょうか。
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