2023年 8月 7日公開

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迅速に復旧を図るレジリエンス経営とは

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)など、不測の事態からの回復力を高めるレジリエンス経営が注目を集めています。持続的な経営を可能にするレジリエンス経営について解説します。

1. レジリエンス経営とは

レジリエンス(resilience)とは、病気や困難、苦境から脱するといった意味です。物理用語としては変形された物体の復元力、弾力という意味を持っています。

企業活動は社内外のさまざまな要因で、突然、利益を阻害するリスクを被る場合があります。地球温暖化による自然環境の変化に起因した災害、いつ発生するか分からない大規模地震、IT技術の進化による急激な社会変化など、企業活動に大きな影響を与える無数のリスクが存在します。

特に2020年から世界中を席巻した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界規模の経済停滞をはじめ、テレワークの浸透や意識変化など、企業を取り巻く環境変化が著しかったため、不確実性の時代(VUCA=Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれています。不確実性の時代は予想外のハプニングが突然起きるというマイナス要素だけでなく、環境変化により全く新しいサービスやマーケットが出現するというプラス要素もあります。

レジリエンス経営は、リスクに対応し、乗り越える人材を育成して柔軟で強靱(きょうじん)な組織を生み出す経営手法となります。災害対策などでBCP(事業継続計画)を策定している企業も多いと思います。BCPに対応力や回復力を高めるレジリエンスを組み合わせることで、復旧だけでなく、その後の事業発展に向けた取り組みが可能となってくるでしょう。

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2. レジリエンスの構成要素

経営層の明確な経営理念の理解・浸透と部署や役職を超えたコミュニケーション活性化、全社的な情報共有が必要となります。

経営理念の浸透と社内風土づくり

何らかの災害やトラブルで大きなリスクが発生した際には、「全社一丸となって対処する」ことが必要となります。しかし、この際に経営層と従業員の意識がバラバラだと対応が乱れ、復旧のスピードが遅くなる恐れが出てきます。

レジリエンス能力を高めるためには、企業で働く全員が経営理念に共感することが基本となります。経営者は、企業が何のために存在するのかという経営理念を語り、従業員はその「存在意義」に共感していくことで一体感が醸成されます。この経営理念によって、製品やサービスが生み出され、企業ブランドとして具現化されます。これが企業風土として根付いていくことで、リスクに対しての対応力が格段に向上します。

コミュニケーションの活性化

リスクに陥ると不安やイレギュラーな業務が発生するなど、業務や人間関係のストレスが高まります。特に被害を最小限に抑えるためには、早期発見と原因の究明が不可欠ですが、報告・連絡が遅れたり、責任から逃れるためにわざと原因究明に支障を及ぼしたりする可能性も出てきます。

このようなネガティブな社風にならないよう、挑戦することを評価し応援する環境を形成しましょう。そのために必要なことは管理職など、マネジメントを行う役割の方は、人と人をつなぐブリッジの役割を果たすことです。部署の中だけで固まるのではなく、社内外の人材をコーディネイトして知識や経験・アイデアを取り入れて、視野を広げて刺激を与えることで視野が広がり柔軟な対応力が形成されます。

テレワークや遠隔地のスタッフとのコミュニケーションを活性化するためには、オンライン会議だけでなく社内SNSなどを活用します。挑戦することを評価するためにテーマ別のトークルームの開設を奨励したり、雑談や社員の一言から新たな商品やサービスを生むトライアルを始めてみたりするなど、小さな一歩でもよいので成功事例をつくることをお勧めします。

情報共有

デジタル化の最大のメリットは、情報のやり取りと蓄積が瞬時に行えることです。社会環境が急激に変化するのはデジタル化による情報流通が加速化しているためです。

企業活動で重要なポイントは、情報が共有されている=情報の活用力です。特に業務についての成功例、失敗例やリアルタイムな進捗(しんちょく)状況など、誰が何をしてどんな結果になっているのかを知ることは、業務を迅速かつ正確に対応するために欠かせない情報となります。さらに、有事の際は状況を共有することで、誤報やうわさに左右されずに冷静に復旧に向けた取り組みを行うことも可能となります。

かつて、大きな不祥事を起こした企業では、マスコミに発表する前に社員に詳細な情報を伝えることで、社員は取引先にいち早く説明を行い、取引停止などの損害を最小限にとどめた例もあります。SNSが発達している現在では、ささいなトラブルでも大きなリスクに発展する可能性があります。不利益な情報は隠ぺいしがちですが、隠すことより正確な情報を共有していくことの方がはるかに大切です。

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3. レジリエンス経営サイクル

レジリエンス経営は、BCP(事業継続計画)の一環として行います。

  1. 予防と備え

    リスクを未然に回避するためには、的確な予防措置が必要です。そのためには正常な状態を把握し、ささいな異常を敏感に検知することがなにより肝心です。特に社内の不祥事や情報流出を防止するためには、コンプライアンスと情報セキュリティ管理の徹底が効果を発揮します。

    サイバー攻撃などのITインフラに関するリスクについては、システムによる防御は最低限必要となります。同時に情報セキュリティについての教育を行い、従業員個々の危機意識を高めることが重要です。DX時代と言われる現在では、IT系のトラブルは大きな損失を被る可能性が高まっています。また、フィッシング詐欺のようにシステムでは検知することが難しい人を対象としたトラブルも増えています。サイバー攻撃の手法は常に変化しています。定期的な研修を実施して注意喚起を施しましょう。

  2. 原因特定と被害の最小化

    被害を最小限に食い止めるには、早期の発見と的確な対応です。あらゆるリスクを想定して、対処方法をマニュアル化し、役割分担を決めて対処方法を訓練することが必要です。マニュアルがあってもトラブル発生で混乱して役に立たなかったということのないように、実施訓練を行い不備な点は速やかに修正・変更を行います。

  3. 回復・復旧

    迅速な回復・復旧を図るには、前述したレジリエンスの構成要素に挙げた「経営理念の浸透」「コミュニケーションの活性化」「情報共有」をベースに取り組みます。大きな災害の場合は取引先をはじめ、社外・地域の人々とも連携して早期復旧に向けた取り組みを行います。この場合は、自社の復旧よりも地域社会の復旧を優先します。「地域社会に貢献することが自社の存続につながる」という意識を持って対処しましょう。

  4. 再発防止策、事故情報の共有

    再発防止策を講じるうえで重要なポイントは、原因究明と分析です。事故発生時の原因究明は現象を把握して被害拡大を阻止することが目的となりますが、この段階では背景など、なぜトラブルが起きたかを多角的に分析して、再発防止に有効な措置を検証します。

    再発防止策は(1)の「予防と備え」につながります。原因究明だけでなく、対処方法を検証することで同様のトラブルが発生した際に迅速な対処を施すことが可能となります。自社の業態に関連する他社事例も参考事例として把握することで、疑似的な経験値を増やしていくことも、いざという時に効果を発揮することもあります。

BCPマニュアルのメンテナンスは手間がかかりますが、企業存続のためのバイブルとなりますので、最新の情報を掲載できるように心掛けましょう。また、ChatGPTなどを利用してマニュアル作成や改訂の手間を軽減していくことも検討してみましょう。

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4. レジリエンス経営と総務の役割

レジリエンス経営は、経営者と従業員の意識を一体化し、迅速にトラブルから回復を図るものです。これは、まさに総務部門がリーダーシップを持って対応する業務となります。総務の基本的な役割である、全社的なコミュニケーション機能を発揮してレジリエンス経営を推進しましょう。

予測不能で急速に変化する社会環境で、企業が生き延びるためには柔軟な対応力を高めていく必要があります。
攻めの営業、守りの総務とよく言われますが、守りが完璧であれば余裕を持って攻撃に転ずることができます。
企業が直面するリスクからいち早く回復し、回復後は攻めに転じる強靭な組織づくりを目指してみてはいかがでしょうか。

経済産業省では、災害からの復旧や事業承継をメインに事業継続力強化の認定制度を設け、認定事業者には税制や融資の優遇措置が受けられるような取り組みを行っています。

制度を利用してリスク軽減と迅速な復旧を図るための環境整備を、これを機にぜひ検討してみませんか?

参考

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5. 万が一の時にも事業を継続させるためのBCP対策

ERPのBCP対策

大規模自然災害やパンデミックなどの脅威がより身近なこととなっている今日では、企業の基幹であるERPシステムを、安定的かつ継続的に利用できる環境を整備する必要性が高まっています。「担当者が急病で業務が止まってしまった」「取引先のシステムの障害でモノの調達ができない」ということも企業にとっての緊急事態になります。万が一の時に事業を継続させることで、顧客からの信用を維持し、市場関係者からも高い評価を受けることとなります。大塚商会がご提案するBCP対策をご紹介します。

ERPのBCP対策

  • * 本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。

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