1. 給与のデジタル支払いとは
普段の生活で電子マネーやキャッシュレス支払いを利用する機会が増えているのではないでしょうか。経済産業省が2022年に調査した結果では、購入支払いの36%がクレジットカードなどのキャッシュレス決済となっています。
経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」を参考に作成
(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html)
このような流れを踏まえて、2022年11月に労働基準法施行規則が改正され、2023年4月以降から給与のデジタル支払いが可能になりました。給与は働いた対価として支払われるもので、労働の最も基本となるものです。かつては現金で支払われていましたが、銀行口座への振り込みが普及してからは、銀行口座への振り込みが給与支給の方法として定番化しています。
給与のデジタル支払いとは、銀行口座への振り込みではなく、スマートフォンなどの電子決済サービスを行っている資金移動業者を通じて給与を振り込むことです。例えば、従業員が普段の買い物で利用しているPayPayや○○ペイでのポイントとして支払ってほしいと希望した場合は、給与が指定したポイントで支払うことが可能となります。
ただし、資金移動業者の倒産などでその電子マネーが利用できなくなるリスクもあり、不正行為の防止など労働者保護の観点からも資金移動業者の審査を慎重に行い、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の扱う電子マネーのみが利用可能となります。
個人で使用している決済サービスの資金移動事業者が、登録指定されていなければ利用することはできません。また、経営者と従業員の合意がない場合も給与のデジタル払いはできません。では、給与のデジタル支払いの導入手順をご説明します。
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2. 給与のデジタル支払い導入手順
給与の支払い方法を変更するためには、労使協定など労働基準法に定める就業規則の改定が必要になります。
デジタル給与支払いまでの流れ
1. デジタル給与支払い希望者の調査
全従業員(社員、アルバイトなど、契約形態を問わず業務に携わり、給与支払いを行っているもの)を対象として、デジタル給与の支払い希望、希望する電子決済サービス、希望するデジタル給与支払い割合を調査して、デジタル給与支払いのニーズを検証します。
2. デジタル給与支払いへの制度変更周知
- デジタル給与支払いについての概要を周知します。
給与支給制度変更の目的・趣旨、対象となる資金移動業者、デジタル給与支給の概要、支給対象者、制度開始時期などを分かりやすく説明します。 - デジタル給与支払金額の設定
デジタル給与での支払い割合もしくは金額の設定について周知します。デジタル給与での支払いは、口座の上限金額が100万円以下となっています。また、希望によってデジタル給与支給の金額を設定することも可能です。例えば、毎月5万円はデジタルで、残りは銀行口座振り込みでということもできます。デジタル給与支給の月ごとの金額設定や申請方法、期間を周知します。 - 労使協定の締結
企業は労働組合もしくは労働者の過半数を代表する従業員との間で、上記に定めた内容を基に労使協定を締結する必要があります。 - 同意書の取得
経営者は、デジタル給与支払制度について、留意事項を含めてデジタルでの給与支払いを希望する従業員に説明を行い、同意を得る必要があります。特に支払いに直接関係する資金移動業者についての説明は詳細に行い、支給登録に必要なID(アカウント)などの個人情報の扱いにはくれぐれも注意してください。 - 労働基準監督署への届け出
デジタル給与支払いに関しての就業規則変更について、管轄の労働基準監督署に届け出を行います。
デジタル給与支払制度導入の注意点
デジタル給与支給制度導入に当たっての注意点は以下のとおりです。
- 現金化できない各種「ポイント」や「仮想通貨」での支払いはできない
- デジタル給与の支払い・受け取りは選択肢の一つ。強制してはなりません。強制した場合は労働基準法違反となり、罰則対象となります。
給与の支払いは労働の基本要件となりますので、説明不足による誤解などが生じた場合は、信頼関係にも影響することも想定されます。また、法的な規定はありませんが、配偶者や扶養家族がいる場合は、従業員本人だけでなく家族への周知も留意することをお勧めします。給与が減った、口座に給与が振り込まれないというクレームが発生しないように注意しましょう。
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3. デジタル給与支払いのメリット/デメリット
メリット
デジタル給与の支払いは、世の中がデジタル化していくうえで必須の流れとも言えます。普段の買い物でも小銭を探してモタモタするよりも、QRコードやバーコード決済を使って一瞬で会計を終えた方が楽でスマートかもしれません。また、電子マネー利用によるキャッシュバックキャンペーンやポイントアップというサービスも多くなっています。自治体が行う地域商品券も電子化が進んでいます。
このような状況下、給与のデジタル支給は従業員のニーズに沿った施策として受け入れられると思われます。また、働き方の多様化は雇用形態だけでなく、給与の支払い形態の多様化も行う必要があるのかもしれません。銀行口座を持たない外国人労働者や副業で従事している場合など、給与支払いの選択肢が増えることは就業者の獲得にもメリットを発揮します。
- 働き方の多様化、企業のDX化に対応した給与支払いの選択肢拡大
- 口座振込手数料の軽減
デメリット
- 支払い方法の複雑化によるシステム変更・運用の手間
従業員の希望する資金移動業者へ指定の金額を振り込むためには、従業員からの情報を自動的に反映するためのシステム構築が必要となります。また、確認や問い合わせの対応などの運用も煩雑になる可能性があります。RPA・自動化ツールなどのシステム導入も合わせて検討することをお勧めします。 - 複雑化する給与計算業務のアウトソーシング
給与が毎月固定で支払われているケースは少ないと思われます。残業代や休日出勤、出張、営業などの各種手当、社会保険料、年末調整など、変動する項目が多々あります。また、テレワークなどで交通費も変動するなど、給与計算は複雑化する一方です。デジタル給与支払いでは、さらにデジタル支給する金額と、銀行口座振り込みする金額に分割されるため、二重計上などのトラブルが想定されます。
前述したように、給与計算のミスは従業員の不信感につながる重大なトラブルになる場合もあります。このようなリスクを回避するために、経理担当者の負荷を軽減することを前提に専門の給与計算業務を行う会社にアウトソーシングすることも検討してみましょう。
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4. 給与のデジタル支給の今後
給与のデジタル支給はまだ始まったばかりですが、今後はさらに加速化していくと思われます。例えば、テレワークが定着して在宅で仕事をする人が増えていますが、業務によっては国内だけでなく、海外に居住する人がオンラインで働くケースも増えています。その際の給与支払いは現地通貨での支払いとなる場合もあります。将来的にはグローバルに通用するデジタル給与の支払いも視野に入れておく必要に迫られる可能性もあるでしょう。
これからは、働き手が働きやすい勤務形態を選択し、ライフスタイルに合った給与支払いの選択ができることが、人材獲得のアドバンテージになってくるのではないでしょうか。
いずれにしても、少子高齢化が進み、働き方の多様化が求められる現在、給与支払いの多様化はセットとして考えていく必要がありそうです。給与のデジタル支払いは、単に支給方法の変更ではなく就業形態の変化やライフスタイルの変化が根底にあります。このような変化に企業がどのように対応していくのかを総合的に検討し、そこで導き出された方針に沿って、具体的な給与のデジタル支払い方法を定めることが従業員の理解や共感を得られやすい施策となります。
DX時代に持続可能な企業となるために、総合的な視点で給与のデジタル支給を検討してみてはいかがでしょうか。
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5. 人事情報と給与情報をつなげて一元化する基幹業務システム
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