1. 自律分散型組織とは
従来型の組織がある種の限界を感じている中で、フレデリック・ラルー氏の著書『ティール組織』が近年話題を呼びました。ティール組織に代表される組織は、「自律分散型組織」と呼ばれ、従来型の組織と比較し以下のような特徴を持っています。
従来型の組織と自律分散型組織の主な特徴
| 従来型の組織 (達成型組織、管理型組織) | 自律分散型組織 (ティール(進化型)組織など) |
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組織構造 | ピラミッド型の階層構造 | パラレル構造など多様 |
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意思決定権 | 経営層やマネージャー | 個人やチーム |
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人の管理 | する | しないか少ない |
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目指すもの | 目標の達成 | 存在目的の追求 |
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重視すること | 高効率・合理的・規律 | 持続可能性、人が人らしく働ける |
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情報 | 統制されている | オープンである |
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現代社会は、変化のスピードが速いうえ、価値観は多様化しています。自律分散型組織が機能している場合、会社の存在目的がしっかりと社内で共有され、情報がオープンであれば、経営層の判断を待たずに現場がある程度の意思決定を行うことができます。そのため、臨機応変にスピード感のある対応ができるほか、多様な価値観を基に今までにないサービスを創造しやすくなると言われています。
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2. 自律分散型の組織づくりのポイント
自律分散型の組織を作るために重要な二つのポイントを説明します。
1. 人と人との「関係の質」を高める
米マサチューセッツ工科大学(MIT)組織学習センター創始者のダニエル・キム氏が提唱した「成功循環モデル」によると、組織構造をつくり始めるときに大切なのが「順序」と「目的」です。組織が、売り上げや規模の拡大などの「結果の質」ばかりを求めると、人と人の「関係の質」が悪くなり「思考の質」も低下し、必然的に「行動の質」も落ちるという悪循環に陥ってしまいます。そこで、まずは「関係の質」を上げることを目的にスタートさせると、同じサイクルの順序でも最終的に結果も関係も向上する好循環が生まれやすいと言われています。
マイナスのサイクル
- 結果の質:メンバーに結果ばかり求める
- 関係の質:関係性が悪くなる
- 思考の質:思考が萎縮、視野が狭くなる
- 行動の質:前向きな行動が生まれにくくなる
- 結果の質:良い結果が出にくくなる
プラスのサイクル
- 関係の質:メンバー間で良好な関係を築く
- 思考の質:メンバーの思考が前向きになる
- 行動の質:新しい行動をする意欲が生まれる
- 結果の質:良い結果が出やすくなる
- 関係の質:メンバー間の関係がさらに良くなる
2. 権限を委譲する(エンパワーメント)
エンパワーメント(empowerment)とは、組織の業務処理において、部下に権限を委譲することで、部下の考えを積極的に取り入れ、相互に協力しながら自発的に目標の達成を目指そうという考え方で、ビジネスにおいては「権限委譲」と訳されることが一般的です。組織の業務処理において、命令したり統制したりするやり方は、時として部下の主体性とやる気を奪ってしまう可能性があります。一方、権限委譲によるやり方は、本人にやり方を任せ、上司はこれを支援する形を取ることで、本人の強みや主体性を引き出すことができます。
権限委譲する際は、単なる丸投げとなってしまわないよう期待する役割を明確に伝え、上司や他のメンバーから適切な助言を得られる仕組みづくりを行うことが重要です。
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3. 自律分散型のルール作りのポイント
自律分散型組織においても、当然に労働基準法、労働安全衛生法などを順守することが求められます。社内のルールについても見直して整備しておきましょう。
1. 労働時間管理
自律分散型組織においては、ある程度労働時間に裁量があったほうが働きやすいものと思われます。まずは、フレックスタイム制の導入や、みなし労働時間制、裁量労働制が適用できるかなどを検討してみてはいかがでしょうか。なお、自律分散型組織であっても、労働時間管理を全く行わないことはできません。違法な長時間労働とならないよう、労働安全の観点からも、必要な労働時間管理は行うようにしましょう。
2. 等級制度、評価制度、賃金制度
従来の等級制度、評価制度、賃金制度といった人事制度についても、再度あり方を検討する必要があります。その際、各従業員に当てはめたうえで不利益な変更となる社員がいる場合は、激変緩和措置を取るなどして、個別に同意を取る必要があります。
自律分散型組織を成功させる鍵は「心理的安全性」です。勤続年数が長くなるにつれ、給与は緩やかに上昇するなどといった、従来型の賃金テーブルは残しつつも、自身の働き方に関する要望が会社に提示できたり、上司と話し合って最終的な年収を決められたりできるなどといった、納得感のある給与の決め方ができると良いのかもしれません。
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4. これからの組織のあり方とは
自律分散型組織へ移行するためのプロセスには、従来型の組織を続けるうえでも大切なヒントが隠れているように思います。自社の組織の今後のあり方について話し合う過程で、組織が抱える課題に気づいたり、メンバーの理解が深まり、納得感が高まったりすることもあるでしょう。
従来型の組織より、自律分散型組織のほうが絶対的に優れている、というわけではありません。自社にマッチした組織構造を検討するうえでの参考にしていただければ幸いです。
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