2023年10月16日公開

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人材の多様性(ダイバーシティ)を生かした組織づくり・三つのメリット

著者:岩野 麻子(いわの あさこ)

最近では、職場における人材の多様性(ダイバーシティ)が重要視される一方で、「自分の好きなものや自分の意見を否定されたくない」と感じる人が増えていると聞きます。多様性とは何でしょうか。また、多様性を生かした組織づくりには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

1. 人材の多様性(ダイバーシティ)とは何か

経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」によると、人材の多様性とは、「性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・心情、価値観等の多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方等に関する多様性も含むもの」とされています。

多様な人材が働ける下地として、時間的や場所による制約がある場合にはフレックスタイム制や時短勤務、テレワークの活用などといった、多様な働き方が選択できる制度があるという制度面はもちろん必要ですが、他の従業員の理解や意識の持ち方、コミュニケーションや従業員同士のつながりといった組織づくりの面も重要となります。

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2. 必要な取り組みをせずに開始すると逆効果に

人材の多様性と企業の生産性や人手不足の間にどのような関係性があるかを示したデータがあります(内閣府「企業意識調査」)。このデータによると、計画とビジョンを持って、柔軟な働き方の促進などの多様性を生かす取り組みを取り入れた場合に生産性の向上が見られました。ところが、そういった取り組みをせずに、多様性のみを増加させた企業の場合、多様性を増加させなかった企業よりもコミュニケーションコストは増加し、職場の団結力が低下するなどして、生産性が低くなる場合があることも確認されています。

出典元:内閣府「令和元年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)」
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/pdf/p02043.pdf)

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3. 人材の多様性(ダイバーシティ)を生かした組織づくり・三つのメリット

今後の人口減少・社会構造の変化の中で、私たちは、どのように多様性と向き合い、どのような組織づくりを行えば良いのでしょうか。

取り組みなしに多様性を増加させると「(相手を傷つけるような)言いたいことを言いあう職場」になり、ギスギスしたり、ハラスメントの問題が起きたりすることもあれば、逆に「相手を否定しない(やさしい)コミュニケーション」が行われ、なかなか意思決定できなかったり、良いアイデアが出づらくなる職場になる場合があります。

多様性の増加を実現するには、まずはハラスメントをしない・させないことは大前提としたうえで、「一人一人の個性を尊重し、さまざまな意見に耳を傾けることを大切にできる職場づくり」を意識してみてはいかがでしょうか。

1. 自分と異なる価値観を理解する努力をすることで、組織の心理的安全性を高める

職場において、自分の意見を否定された時や、自分と異なる意見を持つ人と仕事をする必要がある時に、私たちはどのように考え、どう振る舞えば良いのでしょうか。そのような時、相手に対してつい身構えてしまいがちですが、そういった場合こそ、相手を取り巻く環境を理解しようとし、相手について知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

仕事やプライベートで最近うれしかったことや、つらいと感じたことなど、相手にまつわる小さなエピソードを見聞きするだけで、「実は苦労していたんだな」と相手を見直したり、「意外と同じものが好きかも」とプライベートでの共通点を見つけたりすることもあります。

そのような相手への小さな理解を積み重ねることで、自分と異なる意見を持つ人の言葉にも耳を傾けられるようになったり、自分と異なる価値観を理解しようとする努力がしやすくなったりすることもあります。そのうえで、あらためてブラッシュアップした自分の意見を表明したり、議論を重ねたりすることは、結果として組織全体の心理的安全性を高めることにもつながります。

2. 多様な視点から、業務改善やイノベーションが起きやすくなる

多様性の増加によるメリットの一つとして、さまざまな視点が生まれることで、今までの仕事のやり方についても見直されたり、最適化されたりして業務の効率化ができ、今までの仕組みがブラッシュアップされ、業務改善がされやすくなるといった点があります。

また、会社などの組織には、調子が良い時期もあれば、社会情勢の変化などにより、停滞、衰退していく時期もあります。そのような時期に新規事業を推進や、既存事業の立て直しを図っていくためには、組織に変革をもたらす必要があり、そういった役割を担う人の存在が重要となります。変革を起こせるスキルを持つ人材を伸ばし生かすためには、多様な視点を持った多様な人材や、ときには失敗を恐れずにチャレンジできる組織風土がイノベーションの底力となる場合もあります。

3. 働く多様な人材のウェル・ビーイングに貢献し、企業の人手不足解消にも

「Well-being(ウェル・ビーイング)」とは、単に健康であるだけでなく、肉体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。多様な働き方の選択肢があるということは、正社員として働く人々にとっては、自らのライフスタイルや価値観を大切にした働き方が選択できる一方、今まで、さまざまな制約があって働けなかった人々にとっては、働くことを通じて、社会とつながり、より良い暮らしを手にするための場ができることにもつながります。

人材の多様性を生かした組織づくりで、企業にとっても、人手不足の解消や、より良い職場づくりができることから、企業と働き手、社会にとってもプラスの好循環が生まれると良いですね。

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