2022年10月12日公開

【連載終了】読んで役立つ記事・コラム

労働時間の適正化を実現する労務管理とは

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

テレワークなどの多様な働き方は、業務効率が高まるなど多くのメリットが享受できます。しかし、労務管理を怠るとリスクも発生しやすくなります。適正な労働時間と管理方法について解説します。

1. 長時間労働抑制の流れと働き方の多様化

毎年11月は「労働時間適正化キャンペーン」の期間です。これは、厚生労働省が長時間労働やこれに伴う問題を解消するために企業経営者の団体や労働組合に長時間労働の抑制など、労働時間の適正化に向けた協力を要請するものです。

残業や休日出勤などが続くと過重労働となり、疾病のリスクが高まります。長時間労働の弊害は、これまで何度も社会問題化してきました。これを回避するためには、以下のような取り組みが必要となります。

  1. 時間外・休日労働の削減
  2. 従業員の健康管理の徹底
  3. 労働時間の適正な把握

長時間労働は、病気だけでなく慢性的な疲労による生産性の低下といった弊害も指摘されています。そのため2020年4月からは、中小企業の時間外労働の上限規制が適用され、残業については三六協定などの労使協定を締結していても、月45時間、年360時間を超える時間外労働は罰則が適用されるようになりました。

また、業務効率向上を目指した働き方改革などの法整備により、従業員が自分のペースで仕事ができるみなし労働時間制や裁量労働制といった、従業員が自分のペースで仕事ができる制度も生まれています。

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2. みなし労働時間制とは

勤務時間は、労働基準法で1日8時間、週40時間まで(実労働時間)とされています。企業では業務に応じて出勤時間・休憩時間・退勤時間・休日などの就業時間/日を定めています。しかし、従業員が社外で仕事をする場合など、従業員が自分で就業時間を臨機応変に調整した方が良い場合があります。このようなケースを想定して、事前に決められた時間を働いたと「みなす」制度が「みなし労働時間制」です。

みなし労働時間制には、「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」の2種類があります。

事業場外みなし労働時間制

出張など取引先の企業に出向いて仕事を行ったり、テレワークなど自宅で作業したりする場合、会社が詳細な勤務時間を把握することが難しくなります。そのような場合に、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた時間を勤務したとみなす制度です。この制度の適用は以下の二つがあります。

  • 所定時間分働いたとみなす場合
    就業規則で9時出勤~18時退勤(休憩1時間)と定めている場合、業務内容が同じで、勤務地が会社から自宅となる場合は、1日当たりの所定労働時間が8時間となりますので、就業規則の変更のみで適用可能となります。
  • 業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす場合
    もう一つ、業務の関係で毎日9時間就業しなければならない場合は「通常業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす」とされ、適用には労使協定が必要となり、みなし時間により残業手当が必要になります。

みなし労働時間制は、社外で業務を行う場合で勤務時間の把握・算定が困難な場合に適用されます。社外でも上司などの管理監督者が同行している場合は適用外となります。また、勤務時間の把握も、遠隔勤務対応の出勤管理システムなどで詳細なスケジュール管理が可能な場合は適用にならないケースもありますのでご注意ください。

裁量労働制

裁量労働制は、仕事の進め方を上司などの監督者の指示ではなく、従業員自身の裁量で決めることができる制度です。主に時間管理になじまない職種に適用されます。裁量労働制は以下の2種類となります。

  • 専門業務型裁量労働制
    研究開発に携わる人や建築士、弁護士などの有資格専門職の方を対象として、所定の労働時間にとらわれずに、あらかじめ労使協定によって決めた時間を働いたとする制度です。採用できる専門職はSEや記者、編集者、デザイナー、ディレクター、研究者、公認会計士、弁護士、建築士、税理士など19の業務となります。
  • 企画業務型裁量労働制
    企画・立案や調査・分析を行う従業員を対象として、専門業務型と同様に自己裁量で勤務時間などが設定できる制度です。これを適用するためには、労使委員会の設置と決議、労働基準監督署への届け出、本人の同意などの手続きが必要となります。

参考

厚生労働省「専門業務型裁量労働制」(厚生労働省のWebサイトが開きます)

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3. 適正な労働時間の把握とは

上述したような、勤務時間を会社が管理するのではなく、勤務時間管理を従業員の裁量に任せる「裁量労働制」導入などの動きが今後も浸透していくと思われます。しかし、これは会社が労務管理をしなくても良いということではありません。2019年4月から施行された【改正】労働安全衛生法では、従業員の労働時間の把握が経営者の義務である、と規定されました。

  • 従業員の労働時間の把握
    労働時間は会社の管理、命令下に置かれている時間を意味します。従業員が担当する業務だけでなく、準備や清掃、指示による待機、業務命令による教育・研修・訓練も含まれます。
  • 労働時間の客観的な把握
    タイムカード、ICカード、PCのログ管理などによる客観的な出退勤時間の把握、賃金台帳への記入、従業員の労働時間に関する書類の保存を行う必要があります。上記の把握が困難な場合は、自己申告による把握となりますが、証明のための確認作業など、煩雑な作業が発生しますのでご注意ください。
  • 管理監督者、裁量労働制対象者の労働時間把握も対象
    一般的に、管理職や裁量労働が認められた専門職は労働時間管理の対象外と思われがちですが、長時間労働による弊害は従業員、専門職、管理職という職種や階層に関わらず発生します。また、対象は社員だけでなく、派遣労働者、アルバイト・パートタイマーなどの短時間労働者、有期契約労働者など、企業で働く全ての人が対象となります。

全従業員の勤務状況を客観的に把握して管理するためには、適切な出退勤管理システムを導入することが必要となります。自社の事業内容と勤務状況の可視化を目指して、勤怠システムの導入や改善を検討してみましょう。

参考

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省のWebサイト<PDF>が開きます)

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4. 適切な労務管理のカギは、管理職の意識改革

労働時間の適正化を行うために必要なことは、労働時間・業務内容の把握と指導です。最近、特に課題となっているのは、テレワークや裁量労働など、従業員が自分のペースで仕事をする際の過重労働の常態化です。

自分のペースで仕事をするのは、一見すると短時間に集中して業務を処理し、空いた時間は趣味などの余暇に活用といったワークライフバランスを実現するという効果が期待できそうです。しかし、上司に帰れと言われない、終電を気にしなくてもよいなど、会社の管理や指導がない状況で、延々と残業してしまうケースが増えています。オフィスであればノー残業デーなどで、強制的に帰宅を促すことも可能です。しかし、誰からも注意を受けない自宅の場合は、ズルズルと残業してしまうことも起こりかねません。本人が体調を崩して初めて会社が気づくという深刻な事態の発生は、なんとしても防ぎたいところです。このような事態を回避するためには、以下のような上司・管理職の意識改革が必要となります。

  • 勤務時間と成果を客観的に把握
    適正な勤務時間とそれに合った成果となっているかを判断します。また、勤務時間の把握は、従業員の自己申告ではなくPCの起動~シャットダウンの時間を出退勤時間とするなど、運用が簡易で客観的な出退勤管理システムを利用することをお勧めします。
  • 仕事量のバランスを取る
    労働時間の把握とともに、特定の人だけに負荷がかかっていないか、勤務歴の短い就労者とベテランの人員配置など、業務処理のバランスを検証します。過重労働に気づいたら、その原因を解明し解決に向けた対処を施します。慢性的な人員不足など組織体制に課題がある場合は、収益の見通しと人件費の関連性など、経営的な視点で対処する場合もあります。業務処理を適切に行うことは管理職の最重要課題です。リーダーシップを発揮して、担当部署の労務環境を整備することが望まれます。
  • コミュニケーションの活性化
    客観的な労働時間の把握と併せて、本人の意思を確認します。単に「残業を減らせ!」だけでは適正な労働時間は実現しません。残業の原因を探り、そこから対処方法を導き誘導していくことが必要です。適正な労働時間とは、残業を少なくすることだけではないからです。

新しいことにチャレンジする場合は、習熟するまで作業時間がかかる場合が多くなります。また、業務は与えられた仕事をこなすだけでは向上しません。教育や研修など、技術を学び習得する時間も必要です。単に時間短縮を唱えるだけでなく、そこで生まれた時間を有効活用する方法を考えることも必要なのです。そこが労働時間適正化の「本丸」だともいえるでしょう。

上司・管理職といわれる立場の人は、従業員の成長を踏まえた継続的な視点でコミュニケーションを取り、目指す方向をサポートしながら適正な労働時間を管理していきましょう。

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5. 勤務状況を把握して、残業を抑制する仕組みづくりを

複合機がタイムレコーダーに変身

政府が進める「働き方改革」でも長時間労働を是正する取り組みが企業には求められており、今後ますます勤怠管理システムの導入は拡大していくことが予想されます。勤怠管理システムと複合機を連携させれば、パソコンやタイムカードがなくても複合機だけで打刻が可能。残業時間や出退勤など、社員の勤務状況を適切に管理し、労働時間の適正化を図ることができます。

複合機がタイムレコーダーに変身!

  • *本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。

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