この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
- ※ 6月17日公開予定:M&Aの成否を分けるPMIとは(後編)
企業の存続と成長戦略の手段と認知されつつあるM&A
――なぜ今、中小企業のM&Aが注目されているのでしょうか。
水野 中小企業のM&Aが増加している背景には、昔に比べて事業承継が難しくなっていることが挙げられます。かつて日本の中小企業では、「息子が継ぐ」「娘婿が継ぐ」といった親族内承継が一般的でした。昨今では家業を継ぎたがらない若い世代が増えており、後継者が見つからずに廃業せざるを得ないケースも少なくありません。その結果、親族ではなく第三者に事業を引き継ぐM&Aという選択肢を検討する企業が増えています。
また、日本に多い老舗企業にとってもM&Aは重要な選択肢となっています。伝統を守るだけではなく、時代の変化に対応しながら事業を存続し、発展させるための手段となっているのです。
こうした事情を受けて、中小企業のM&A市場は急拡大しています。2024年にはM&A件数が過去最高の4,700件に達したというデータがあります。また、中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎ支援センターでも相談件数が23,722社、M&Aの成約件数が2,023件と、いずれも過去最高を記録しました。市場の成長に伴い、地方銀行をはじめとする金融機関やM&A仲介業者の支援も活発化し、中小企業向けのM&Aは一大ビジネスへと発展しています。
少し前までは「会社を売る」ということに抵抗感を持つ経営者も少なくありませんでしたが、今では、M&Aは企業存続のための重要な手段となり、成長戦略の一環としても積極的に活用されるようになっています。
――急激な変化の過程で課題はないのでしょうか。
水野 課題はさまざまあります。最も大きな課題は、統合する企業双方の企業文化の違いです。同じ業種であったとしても、経営方針や意思決定のプロセス、従業員の働き方などは大きく異なるもので、こうした文化の相違が統合の障壁となります。
文化の違いを乗り越えられなかった場合、M&Aの結果が期待外れのものになってしまうことも珍しくありません。買収する側の企業からすると、期待した相乗効果が得られないばかりか、1+1が2、あるいはそれ以下という状態です。この時、買収された企業側の従業員にしてみると、ただでさえ「寝耳に水」の出来事で不安な中、文化やルールの変更に伴う不満が生じてモチベーションが低下していると考えられます。
買収前のデューデリジェンス(企業価値評価)の難しさも課題です。財務情報は比較的容易に入手できますが、実際の顧客関係や従業員の質、組織文化などは表面的な調査だけでは把握しきれません。こうした「見えない価値」の評価が不十分だと、買収後に双方が「こんなはずではなかった」という事態に陥りやすくなります。
M&Aを成功に導くPMIとは何か
――買収企業と被買収企業の間のギャップをなくすための取り組みとしてPMIが注目されています。PMIとはどのような取り組みですか。