この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。
M&Aの段階に応じてすべきことが異なるPMIの実際
――PMIに取り組む際には、M&Aのどの段階でどんなことをすべきなのでしょうか。
水野 前編でも解説した通り、M&Aを成功させるためにはPMIが不可欠です。PMIが適切に行われなければ、シナジーを生み出すどころか、企業文化の衝突や従業員の離職、業績の悪化を招く可能性があります。そのため、M&Aの初期段階から統合プロセスを考慮し、段階的に準備を進めていく必要があります。
M&Aの最初のステップは、買収を検討する段階です。この時点で、単なる財務的なメリットだけではなく、企業文化や組織の適合性、事業戦略の一致などをしっかりと見極めることが求められます。
特に中小企業においては、長年培われた企業文化が深く根付いているため、それを考慮しながら統合を進めることが、後のPMIの成否を分ける要素となります。
次の段階は、M&Aの交渉と並行して進める「プレPMI」のフェーズです。この時点で、統合後の経営方針や組織構成、業務の一体化をどのように進めるかを想定していきます。
中小企業のM&Aでは多くの場合、このフェーズが十分ではありません。結果としてM&Aが成立した後に予想外の状況に直面する実態があります。M&Aの契約を結ぶ前から、買収後の組織のあり方や業務の統合計画をしっかり立てておく必要があるという理解が求められます。
買収が決まると、本格的なPMIのプロセスが始まります。ここで重要なのは、「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」をバランスよく進めることです。
M&Aが発表されると、被買収企業では多くの従業員が「自分たちはどうなるのか」といった不安を抱えます。まずは買収企業の経営陣がその不安を払拭するためのコミュニケーションを行うことが不可欠です。また、企業文化が異なる組織を無理に一体化しようとすると反発を招くため、共通の目標や価値観を示すなど、少しずつ信頼関係を築いていく工夫も大切になります。
PMIは短期間で終了するものではなく、買収後も継続的に取り組むべきプロセスです。統合後の組織が一体化し、新しい経営体制が定着するまでには時間がかかるため、経営者には長期的な視点が求められます。
いくつものM&Aを成功させてきたニデックの創業者である永守重信氏は「M&AにおいてはPMIにかける割合が8割」と述べています。つまり「契約成立はゴールではなく、むしろスタート地点に過ぎない」という認識が重要なのです。

PMIの集中実施期は一年が目安。特に、現状把握、PMI推進体制の確立、関係者との信頼関係の構築などは、M&A成立後100日までをめどに実施する。
出典:中小企業庁「中小PMIガイドライン」を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――人材や資金の制約がある中小企業がPMIに取り組む際、どのように優先順位を決めていくと良いでしょうか。