1. 働き方改革の概要
働き方改革は長時間労働によるさまざまな弊害を排除し、多様で柔軟な働き方を推進することです。業務効率を高めることを主たる目的として、2019年4月より関連法が順次施行されています。
出展元:厚生労働省 働き方改革関連法などについて「各改正事項の施行・適用時期」を参考に作成
働き方改革関連法が公布されたのは2018年7月です(施行は2019年4月から)。しかし、公布当初は、過労死や過重労働に対しての厳しい世論はあったものの改善に取り組む企業はごくわずかでした。例えば、2018年度におけるテレワークの導入企業は5.5%にとどまっていました(内閣府2020年調査結果)。
それが、2020年の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により状況が一変します。上記調査が行われた2020年3月時点では11.1%となり、東京都の企業に限って見てみると29.0%と激増しています。それ以降もテレワークの導入は増え続けています。テレワークの導入が広がるとともに、通勤時間、残業・休日出社が減少し、その分、余暇時間が増加する結果となりました。結果的にではありますが、人との接触を避ける感染拡大防止対策が働き方改革を強力に後押しする形となっています。
このように、急激に浸透した働き方改革ですが、準備不足のままテレワークという名の「自宅勤務」を行った企業も多く、感染の警戒感が薄まるとともに以前の勤務形態に戻っている企業も少なくありません。全ての企業で働き方改革が完全に定着するためには、まだ時間がかかるかもしれません。
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2. 今後の働き方改革関連法の施行について
働き方改革に関連する法律は2024年までに順次施行されます。2023年以降に施行される主な働き方改革関連法は以下の通りです。
時間外労働の上限規制の拡大
36協定を締結した場合、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超過した時間外労働が可能となります。ただし、月45時間/年360時間を超えて労働させる場合は、特別条項付きの36協定を締結しなければなりません。
36協定の特別条項となる時間外労働の条件
- 時間外労働は720時間/年以内
- 時間外労働と休日労働時間の合計が100時間/月未満
- 2~6カ月の時間外労働と休日労働時間の合計(平均)が80時間/月以内
- 時間外労働45時間/月以上は年6回まで、6回以上行うことはできない
時間外労働の上限規制に違反した場合は、罰則が適用されますのでご注意ください。この規制は、大企業は2019年から、中小企業は2020年から適用されていましたが、一部の業種では適用が5年間猶予されていました。しかし、2024年4月からは建設業、運輸業(運転手)、医師、鹿児島沖縄砂糖製造業従事者についての適用猶予が廃止されます。
長時間労働を回避するための対策
働き方改革の背景にあるものは、過重労働によるリスクの軽減です。長時間労働が常態化することで過労死をはじめ、ストレスによるメンタル系疾患や生活習慣病などによる休職者・離職者の増加、残業代の増加など、生産性の低下につながるリスクが発生する可能性が高まります。
時間外労働削減のポイント
- リアルタイムで詳細な労働時間の把握と管理
- 時間外労働、休日労働を必要最小限にとどめるための工夫とルール策定
- 勤務インターバル、休日出社の場合の代償休日付与、時差出勤、テレワークなどの柔軟な勤務の推進
- 残業・休日出社しなければならない業務の内容・必要人員を細分化・明確化
- 健康管理施策の強化
- 医師(産業医・専門医)の面接指導
- 健康相談窓口の設置
- 産業医などによる就業環境への助言・指導
- 同居家族も含めた体調管理の推進、生活指導
従業員の健康を守ることが、ポジティブで活気ある企業風土を築き、生産効率・収益率の向上につながります。旧態依然としたあしき業務慣習があれば、思い切って断ち切ることも必要です。まずは、全社の時間外労働や休日労働などの労務実態を調査し、不明な事項があれば関係者をヒアリングするなどして「あしき旧態」を顕在化させることから始めてみましょう。
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3. 働き方改革の推進課題とDXソリューション
内閣府が2019年に行った企業調査によれば、働き方改革の取り組み課題は以下の4点となっています。
働き方改革取り組み課題
- 業務量が多い
- 人員が確保できない
- 業務を柔軟に調整できない
- 社内慣行などを変えることが難しい
1、2については、システムの導入が解決のポイントとなります。それは、今話題のDX(Digital Transformation)です。過去のIT構築は、特定の業務に対応した部分最適化でしたが、最新のデジタルテクノロジーは、全社のデータ共有と高速大容量で一元処理が可能な統合型のシステムとなっています。そして、このシステムの効果を最大限に発揮させるためには、経営戦略や企業風土全体をデジタル技術で最適化し、経営者・従業員の意識や慣習の変革を行うことが必要となります。
デジタル技術により大量の業務を瞬時にミスなく高効率に処理することも可能になります。また、単純なデータ計算だけでなくAI技術により判断が必要な業務もできるようになってきました。生活においても、セルフレジや無人店舗、自動安全運転システムなど、身近なところで統合化されたデジタル技術による省力化を体感する機会が増えています。
3、4は、社内体制の根本的な改革が必要な課題です。DXのX=Transformation(変革)と併せて検討することをお勧めします。冒頭でコロナ禍が働き方改革の浸透を推進したと書きましたが、これはあくまで導入のきっかけとなる事象です。働き方改革を実現し定着させるためのポイントは企業のDX化です。働き方改革を支援し、DXを推進するために、電子帳簿保存法改正や官公庁での押印廃止などインフラの整備施策が次々と施行されています。自社の過重労働の削減にDXがどのように活用できるのかという視点で自社の将来像を検証してみましょう。
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4. 働き方改革とDXのタイムリミット=2025年
働き方改革とDXを推進するうえで注意したいタイミングが2025年です。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり働き手不足が懸念される「2025年問題」と、旧式のシステムの保証期限が終了し、対応するベテランIT技術者の枯渇が起こり、日本国内で多額の経済損失が発生するとされている「2025年の崖」とが同じタイミングで到来するからです。
どちらも地震のように突然発生するものではありません。ただ、これから徐々に人材確保が困難になったり、システムの入れ替えに時間や費用がかかってしまったりするような傾向になると予想されます。また、どちらの問題も2025年が過ぎたら解決するものではなく、2025年を契機に問題が深刻化していく可能性が高いと思われます。
働き方改革や企業のDX化はこれまでの慣習や意識改革が必要な施策です。実現し定着させるためには時間もかかります。従業員を守り、会社を守るために、中長期的な視点で経営戦略を立案し実行していきましょう。
内閣府「令和2年度 年次経済財政報告 -コロナ危機:日本経済変革のラストチャンス-」(内閣府のWebサイト<PDF>が開きます)
- * 本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。
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