2023年 4月 3日公開

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企業の存在価値を高める「パーパス経営」

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

デジタル社会の到来で、社会の意識や構造も変わりつつあります。企業は社会の上に成り立っていることを再認識して、新たな将来像を宣言するパーパス経営について解説します。

1. パーパス経営のベースは経営理念

パーパス経営は企業の社会的な存在価値を明確にして企業活動を行うことです。多くの企業において企業の存在価値は、経営(企業)理念として表されています。

経営理念とは

企業は、設立の目的や意義があって存在しています。もちろん、企業活動は利潤の追求が大前提ではありますが、どんな形や方法でその利潤を生みだすのかを表現したものが経営理念となります。経営理念は、創業者や経営者の信条や哲学を基に企業運営の指針として活用される言葉です。一般的に経営者の意志や考えを表したものを経営理念、企業としての使命を表したものを企業理念といいます(どちらも同じ意味として使用される場合が多いので以下、経営理念とします)。

この経営理念を企業活動に反映するものが経営計画となります。経営理念と経営計画などで企業が目指すものを具体的に示すことで、従業員の一体感やモチベーションの向上に効果を発揮します。例えば、アスリートが「オリンピックで金メダルを獲得する」という夢や目標を掲げて切磋琢磨(せっさたくま)するのと同じように、能動的に努力することで進歩していくのです。企業も経営理念によって全社共通の目標や価値観を共有し、従業員がそれに向かって努力することで他社をしのぐパフォーマンスを発揮することになります。

このような経営理念に基づく企業活動が健全な企業風土を形成し、従業員満足度の向上や優秀な人材の獲得など、“善循環”による企業発展につながっていくのです。

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2. 経営理念からパーパス経営へ

パーパス経営が注目される背景

近年、ITの進化による情報網の拡大や物流の広域化など、企業活動の範囲が急速にグローバル化しています。さらに少子高齢化や働き方改革の推進で、テレワークなど勤務場所も広域化しています。このような社会環境の変化により、企業と社会の関係も大きく変化しています。

これまで企業が社会に与える影響は、取引先や展開地域・従業員とその家族など限定的でした。しかし、今ではインターネットなどで複合的かつ広範囲に情報が拡散するため、社会課題として影響を与える傾向となっています。つまり、企業の行動が社会に与える影響が大きくなっているのです。社会に対して良い結果をもたらす企業活動は支持・歓迎されますが、自社の利潤追求を優先するあまり、社会的な存在意義が不明瞭となれば、トラブル発生の際には社会から淘汰(とうた)されるリスクさえ生じるのです。

そこで、企業と社会の関係を明確にした経営を行う「パーパス経営」が注目されるようになりました。パーパス経営のパーパス(Purpose)とは、直訳すると「目標・目的・意図」といった意味合いになります。これまで主に企業内で浸透してきた経営理念を広く社会に向けて行動目標として宣言し、社内外の多くの人の共感を得て企業活動を行います。

経営理念とパーパスの違い

経営理念は、前述しているように経営者が描く「企業が将来あるべき姿」ですが、パーパスでは「企業が成長発展することで、社会に対してどんな貢献を果たすのか」を明言することになります。

パーパスとして目標として掲げるのは、自社の成長によって社会に貢献できることです。外部からの要請で対応するのは経営戦略の範囲であり、パーパス経営が掲げる目標とはなりません。企業が社会に対してどのように貢献するのかを能動的に考え、目標達成のために成長することが求められます。この企業姿勢が社会から支持されることで、持続的に発展する企業となるのです。

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3. パーパス経営のメリット

パーパス経営は、企業の将来像と社会に対して果たす役割を明言します。この未来に向けての行動や姿勢が実績として浸透することで、社内外の共感を得ることが可能となり多くのメリットが期待できます。

  1. 企業の持続的な発展と成長をもたらす

    企業の存在意義を明確にして、それが広く社会に浸透することで企業を支持し応援する人々が増え、企業が存続・発展するための環境が整います。

  2. ステークホルダーとの連携が強化

    企業活動で関係する株主や取引先などからの支持・協力を得やすくなります。人間関係や短期的な利害は状況によって変化する可能性はありますが、長期的な視点に基づく協力関係を構築することで安定した連携が図れます。

  3. 従業員満足度の向上

    利潤追求だけでなく、社会に役立つ仕事をしているという意識の高まりが勤労意欲の向上や、企業に対してのロイヤリティ向上につながります。また、社外からの評価が高まることでさらにやりがいを感じ、全社的な生産性の向上を促進します。

  4. DXの導入・浸透を促進

    DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単に企業のシステムをデジタル化するだけではありません。慣習や意識も含めて環境全体がデジタル化するのです。このような環境の変化に右往左往するのではなく、デジタル化した社会と自社がどのように向き合っていくのかをパーパスとして明確にすることが求められます。

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4. パーパス経営を行うために

パーパス経営を行うためには、現状分析を基にパーパスを構築します。

現状分析

自社がどのような評価をされているのかを、客観的に検証します。
主な検証項目は、以下の通りです。

  • 企業イメージ
  • 業績評価(商品・サービス)
  • 社会貢献評価
  • 経営理念(企業価値、企業ビジョン、使命)の評価
  • デジタル化、グローバル化の進捗(しんちょく)

対象は従業員、ステークホルダー(顧客、協力会社、株主、その他関係者)、一般(購買層を中心に選定)で行います。自社が客観的にどのような評価を受けているのかを把握し、現状からどの方向を目指すかを検討します。これにより自社の強みと弱点が分かれば、企業の持つ強みを生かして、弱点を克服する方向性が定まります。また、経営理念の評価によっては、現状の経営理念を点検し新たなパーパス策定の参考とします。

パーパスの検討ポイント

現状分析結果を踏まえて、パーパス設定の検討を行います。パーパスを定めるポイントとなるのは以下の通りです。

  • パーパス設定の主な検討ポイント自社の強みを発揮できるものか
  • 社会課題と自社の取り組み
  • 従業員・ステークホルダー・一般消費者の共感を得られるか
  • パーパス経営の実現に伴う収支計画(予想)
  • DXやSDGsとの連動、グローバルな視点での検証

パーパスの設定は、自社の強みを持って社会貢献するということです。自社の強みとは、ノウハウや人材など現状の事業をどのように発展させるのかがベースとなります。例えば、他社より低価格で商品やサービスを提供することが他社との差別化になっている場合、「低価格戦略を実践するために簡易包装など、省エネを達成しCO2削減につなげる」がパーパスとなり得るでしょう。

多くの人が納得・共感するパーパスにするためには、できるだけ多角的な視点で意見を求め反映することが必要です。そのためには、単なるスローガンではなく具体的な目標数値としてコミットメント(約束)することが望まれます。上記の例では、低価格を実現するためのノウハウ、実績や具体的なコスト削減(省エネ)方法や目標とするCO2削減量や削減計画を具体的に明記することです。

社会課題は、少子高齢化による人口問題、温暖化などの環境問題などがあります。社会構造や意識の変化も急速に進んでいますので、現状の社会課題と解決の方向性を見据えながら、自社がどのように貢献できるかを検討してください。環境問題に関しては、SDGsをパーパス経営に取り入れている企業もあります。

パーパスを具体化する過程で、パーパス経営に転換するコストや想定する収益もできるだけ数値化してみましょう。パーパス経営で発生するコストは、パーパスの内容によってさまざまですが、パーパス自体の調査、設定費用(コンサルティング費など)、周知・教育の費用、広報(Web、宣伝物の制作、名刺・封筒などの費用)が見込まれます。

現在は、直接海外企業との取引がなくても、間接的に海外の事情がリアルに影響する時代となっています。パーパスの策定は、地域という視点だけでなくグローバルな視点や発想を持って取り組むことをお勧めします。

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5. パーパス経営の注意点

パーパス経営を行う際の主な注意点は2点あります。

  • パーパスから乖離(かいり)した行動

    パーパスは、広く社会に向けて自社の将来像と社会に対しての役割や貢献を宣言することです。経営者・従業員はそれを肝に銘じて行動する必要があります。例えば、環境に配慮した経営の実践を掲げておきながら、廃棄物を不法投棄した場合は大きな問題となり、支持や共感・信用を一挙に失います。企業に関係する全員がパーパスを行動指針として活動することが必要です。

  • 経営計画との連動

    パーパス経営を実践するために、掛かる費用を検証します。特に社会貢献は効果を見いだすのに時間と労力が必要となる場合があります。長期的な視野と予算を持って着手することをお勧めします。

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6. パーパス経営の今後

パーパス経営が注目されている点は、不確実性な社会の到来にあるといわれています。新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)、温暖化による気候変動と自然災害の多発、戦争の発生など、グローバルな課題が発生することで物価高の到来や物流の停滞など、企業も大きな影響を被る事態となっています。

さらにデジタル化の影響で大量の情報が瞬時に世界中を駆け巡るため、人々の意識や社会環境の変化も加速しています。このような状況下、企業が社会との関わりと将来目標を明確に打ち出すことは、人々の注目を喚起し期待や共感を得ることにつながります。そして、パーパス経営で求心力を高めることは、多様な働き方において従業員のロイヤリティを高め、生産効率を向上させる重要な要素となります。

持続可能な企業となるためにパーパス経営の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

参考

経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(案)」(経済産業省のWebサイト<PDF>が開きます)

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7. パーパス経営に向けて企業活動を支援

大塚商会 経営支援サービス

大塚商会では、経営支援サービスとして経験豊富な中小企業診断士をはじめとする各種専門家や、ITストラテジスト、MBAホルダー、経営品質協議会認定セルフアセッサーなど、経営分析のプロフェッショナルたちが現状整理と改善アドバイスを無料で提供しています。「利益を上げていきたい」「新たな販路を開拓したい」といった経営課題をはじめ、「新たな提供価値を見い出したい」「価格競争ではなく、もっと付加価値を高めていきたい」といった悩みも専門家による個別の顧問契約やプロジェクト支援が可能です。

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  • * 本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。

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