2023年 9月 4日公開

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インクルーシブビジネスで支援と収益を両立

執筆:マネジメントリーダーWEB編集部

経済的または社会的に弱い立場の人々を支援・育成し、顧客として取り込み収益を上げるインクルーシブビジネスが注目されています。これまでのCSR(社会貢献活動)との違いを解説します。

1. インクルーシブビジネスとは

ITの進展により、ビジネスは大きな変化を遂げつつあります。特に情報の流通スピードは飛躍的に高まり、世界中のどこにいても自由にコミュニケーションが可能な時代となっています。その結果、国や人種にとらわれない価値観の変化が生まれています。例えば、ダイバーシティ(人間の多様性)を認め、国籍・民族・宗教・性別・障がい・価値観・働き方が異なってもお互いに尊重・協調して活動することで、生産性や競争力を高める動きが浸透しつつあります。日本でも、雇用機会の均等化や働き方改革など、ダイバーシティに沿った施策が具体化されています。

このダイバーシティという考え方を一歩進めて、多様な人材が集まるだけでなく一つの目標・目的に向かって共存・共栄していくことが「インクルーシブ(Inclusive)=包括・取り込み」と言われています。

インクルーシブビジネスは、2005年にWBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)で提唱されました。これまで先進国や富裕層など、高い購買力を持った人々を対象としてきたビジネス活動から、発展途上国の貧困層を対象に知識や技術を提供し、顧客・取引先・起業家として育成、企業活動にインクルーシブ(取り込む)して事業の拡大を図るビジネスと定義しています。

インクルーシブビジネスの展開方法

インクルーシブビジネスは、SDGsと共に持続可能な経営戦略として関心が高まっています。これまでは、地域・社会貢献としてCSR活動の範囲とされてきた活動が、現地での雇用や新たなサービスの創出によって地域社会の発展と経済力を向上させると期待されているのです。

では、実際にインクルーシブビジネスはどのように展開されているのでしょうか。さまざまな展開方法が考えられますが、大きくは以下の2点になります。

  • サプライチェーン
    良質で一定の生産量や価格を維持する原材料のサプライチェーンとしての展開。これまでは低賃金で雇用できることが大きな条件となっていましたが、就労トレーニングによる高品質化や流通インフラの整備など、サプライ環境を総合的に構築していく展開が主流となっています。
  • 就労・起業支援
    現地企業としての設立支援を行います。現地の市場に適した商品やサービスの開発・提供の創出を行い、起業家に対して技術などの導入支援や資金提供を行います。これにより新たな市場の開発や流通整備が推進され、社会基盤が整うこととなります。

雇用の促進により、収入の確保やスキルの獲得も可能になります。これにより経済市場の拡大が可能となり、さらなる雇用と市場の創出が期待できます。

食品メーカーの事例では、海外サプライチェーンでの農作物生産で、現地の環境に適した高品質の作物を栽培し、自社製品の加工に役立てている例があります。かつて海外生産といえば、低賃金の労働力にスポットが当たっていましたが、高品質で現地オリジナル製品の開発・生産は持続可能な取り組みとして、生産国からも大いに期待されています。

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2. インクルーシブビジネスの今後

これまでは、発展途上国に対してのインクルーシブビジネス展開を解説してきましたが、ここからは、国内もしくは自社内でも活用できる展開について説明していきます。

国内でのインクルーシブビジネス展開

社会・経済的な弱者は、発展途上国だけでなく日本国内でも存在します。特に少子高齢化や地方の人口減少は深刻な課題となっています。首都圏だけに人口が集中して地方経済が衰退化することで、大きな歪(いびつ)が生じる懸念があります。

近年は、テレワークを始めとする働き方改革の浸透で、首都圏を避けて地方に移住する例が徐々に増えているようですが、まだ大きな数とはなっていません。インクルーシブビジネスとして展開するためには、需要に対応するために支社・営業所を配置するのではなく、地域社会と企業がどのように共存・共栄を図るかを考えることが重要です。つまり、目先の需要ではなく将来需要を想定して、その環境を整え、地域の持つ気候や地形、歴史風土を生かして新たな市場を開発することが必要とされています。

そのためには、社屋や工場などの設備だけでなく、生活インフラ(住居・電気・水道・交通、教育施設……など)を整える必要があります。生活インフラは自治体に依存することが多いのですが、将来構想も含めて企業と自治体がタッグを組み、長期的視点で地域全体の活性化を目的とした事業構築を行うことが理想です。一過性の措置ではなく、地域に根差した展開を行うことで地域社会との強い絆が生まれるのではないでしょうか。

企業内のインクルーシブビジネス展開

企業活動も常に一定ではありません。政策や景気の変化、気候変動、市場の変化など、企業を取り巻く環境の変化が常に起きています。この変化によって、新たに生まれる業務と消滅していく業務があります。

特に近年は、DX化や長期にわたるコロナ禍の影響により、その変化が激しさを増しています。店舗の無人化やサブスクリプション(定額課金制)という販売方法の出現では、販売担当者の削減が進んでいます。従来は人の手に頼っていた業務がどんどん自動化されています。今後もAIの利用などにより、その変化が加速すると予想されます。

新業務への移行だけでなく、人材活用のためのアイデアを創出し、社内起業家を育成していくことは、これからの企業活動に欠かせない要素となってきます。多様な人材の多様な能力を生かすための環境作りがこれからの労務管理のテーマとなるのです。

インクルーシブビジネスを展開するためには、単方向だけの評価はしてはいけません。多角的に評価していく必要があります。例えば、IT社会ではSNSを使いこなしている人が評価されますが、高齢者向けのIT製品を開発したり販売したりする際は、SNSを利用しない人のアイデアが重宝されることがあります。新しい発想、新しい製品・サービス、新しいマーケットの創出を目指して、インクルーシブビジネスに取り組みましょう。

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3. インクルーシブビジネスの課題

インクルーシブビジネスは、新たな市場を形成することが大きな目標となります。そのためには、環境整備などで長期の時間を必要とします。そのため、中長期の経営計画に基づいて実施しなければ、途中で計画が形骸化したり、断念したりすることになりかねません。また、自治体などの行政や地域社会と連携して展開する場合は、地元の期待と信頼感を失うこととなります。

このようなことにならないように、入念な計画立案を基にした関係先への理解と信頼関係構築は必須となります。特に収支計画はあらゆるリスクを想定して万全に立案してください。

インクルーシブビジネスは長期的な取り組みとなり、ハードルが高そうに感じますが、企業が社会と共に発展していく過程では必要な取り組みなのです。これまで立案してきた経営計画を、ダイバーシティ&インクルージョン(人材の多様性と受容)の視点で見直してみることから、着手することをお勧めします。「自分たちがもうかればOK」という発想を捨てて、社会全体で幸福になるという視点で取り組みましょう。

参考

経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」(経済産業省のWebサイト<PDF>が開きます)

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4. 企業が推進するダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティ&インクルージョンとは? 違いや意味を解説

ダイバーシティだけでなく、インクルージョンという概念も注目を集めており、二つを合わせたダイバーシティ&インクルージョンを推進する企業が増えています。近年、日本では少子高齢化に伴う労働力人口の減少によって、多くの企業で人材確保が課題となっています。しかし、ダイバーシティ&インクルージョンが推進されることで、年齢や性別、国籍などに関係なく、優秀な人材を獲得できる可能性が高くなります。

ダイバーシティ&インクルージョンとは? 違いや意味を解説

  • * 本記事中に記載の肩書や数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容などは公開時点のものです。

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